キュビズムとは?特徴や代表的な作品、日本における影響まで徹底解説
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突然ですが、パブロ・ピカソの絵画と言えば、どんな作品か思い浮かべられますか?
「アビニョンの女」「ゲルニカ」はピカソが描いた絵としても有名ですが、一般の人でも作品名を聞いただけでイメージが出来るほど知名度の高い作品ですよね。
ピカソの作品は写実的な描写では描けないような歪んだ人の形やモチーフが特徴的です。そんな独特のインパクトを持つピカソの作品は、「キュビズム」の表現手法によって描かれています。
今回は、現役アーティストによるキュビズムの解説と歴史やキュビズム作品の楽しみ方について解説します。
「キュビズムって何?」
「キュビズムをどう楽しんだらいいのか分からない」
という方にはおすすめの記事です。
キュビズムとは?
キュビズムとは20世紀に起こった芸術運動、またはその様式を用いる画家の一派を指す。写実的に描くことが重要であった絵画に対して、モチーフを幾何学的に変化させ、構成することで、絵画を抽象的な表現へと変化させた手法だ。
従来の絵画では一点透視法による絵の構造によって写実的に描かれていた。しかし、キュビズムではそれらの考えを覆し、複数の視点から見たモチーフの描写や単純化による抽象的な表現で絵画を再構築しようと試みた。
代表的な作家にはパブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックが挙げられる。
1907年にピカソが「アヴィニョンの娘たち」を制作した所からキュビズムは始まった。角ばった腕やよじれているよう見える顔。本来人間が見ているようなリアルな人の姿とはかけ離れた描写に、多くの人が驚いた。
突如として始まったキュビズムの表現は、先ほど紹介したパブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックによって発展していく。ここからはそんなキュビズムを牽引した2人の画家について紹介しよう。
パブロ・ピカソ
パブロ・ルイス・ピカソ(Pablo Ruiz Picasso, 1881年10月25日 -1973年4月8日)はキュビズムの始まりと言われている「アヴィニョンの娘たち」を制作した画家だ。
ピカソは幼少期から絵を描くことが得意であり、その当時から画家としての頭角を表していた。生涯を通じて多くの作品を作り、様々な表現を行っていた人物でもある。その為、「青の時代」や「バラの時代」と言われるように、制作した時期によって画風が異なる一面を持つ。まさに、制作を通じてあらゆる表現に挑戦した作家とも言えるだろう。
ジョルジュ・ブラック
ジョルジュ・ブラック(Georges Braque, 1882年5月13日 - 1963年8月31日)はフランスの画家であり、ピカソと共にキュビズムを発展させた人物だ。
元々印象派の絵を描いていたブラックだったが、同時期にセザンヌ、ピカソの作品を見たことでキュビズムの絵を描くようになった。1907年に出会ったピカソとは、1909年に共同制作を行うようになる。
キュビズムの後期と言われる1912年頃にはピカソと共に、新聞などの切り抜きを用いたコラージュの作品を作り出している。
キュビズムの歴史
ピカソのブラック、2人の代表的な作家によって牽引されたキュビズムだが、実は19世紀の終わりからその手法は検討されていたものだった。
ここからは19世紀後期からキュビズムの発展、日本での影響について解説していく。
セザンヌからの継承
19世紀後期、ポール・セザンヌ(Paul Cézanne, 1839年1月19日 - 1906年10月22日)によってキュビズムの礎は作られた。彼は後期印象派の画家であり、キュビズムの橋渡しとなった画家である。ちなみにリンゴの絵でも有名な作家だ。
こちらの「大水浴」では、普段見ているようなキュビズムらしい絵とは少し異なるが、後ろにある木がどちらも傾いているように見える。これは現実的にはありえないことであり、セザンヌがこの作品において写実性よりも構図を重視したことが分かる。
こちらの作品は「大水浴」よりも大胆に、芝生や空の様子が四角などのモチーフによって抽象化されている。このように、彼は自らの創作の中でキュビズムの種となった表現を育てていった。
その後、1907年に行われたセザンヌ大回顧展において、作品を見たブラックは衝撃を受け、後のピカソと共により発展した表現となる。
進化するキュビズム
セザンヌから継承されたキュビズムはピカソとブラックによって確立された。しかし、彼らはストレートにセザンヌの表現を追求しただけではない。後にキュビズムという手法を使って、さらに新しい表現アイディアを生み出したことも挙げられる。
一般的には、それらを区分を分析的キュビズムと総合的キュビズムで分けている。ここからは2つの表現の特徴や作品について解説する。
分析的キュビズム
セザンヌの影響を受け、さらに拡大していった表現様式。キュビズムの初期段階として扱われることが多い。セザンヌから引き継いだモチーフを円筒や丸、円錐として描くことや、遠近法、一点透視法などを用いない描き方を発展させた時代である。
引用
基本的に褐色、灰色、黒などの抑モノトーンの色彩で描かれたものが多い点も特徴的である。
総合的キュビズム
キュビズムの後期段階として扱われている総合的キュビズム。
この時代の作品では、新聞などの既製品を作品の要素として加える「コラージュ」のアイディアも生まれた。レディメイドと言えば、マルセル・デュシャンが有名だが、同時代的に発生していた表現だったと解釈してもいいだろう。(マルセル・デュシャンの「泉」が発表されたのは1917年だった。)
新聞の切り抜きの他にも、壁紙やロープなど、従来の絵としては加えられないものを追加することで、絵画の表現の幅を広げた。今日におけるミクストメディアの作品は、総合的キュビズムによって始まったと考えられるかもしれない。
こちらの記事ではより詳しくミクストメディアについて解説している。キュビズムとの関係性も紹介している為、幅広く20世紀の美術を知りたい人はおすすめだ。
キュビズムが日本に与えた影響
キュビズムの手法は海を隔てた日本にも流入し、絵画表現への影響を与えた。日本の作家の中にもキュビズムの影響を受けた人は複数人いるが、ここでは岡本太郎を紹介しよう。
岡本太郎は1929年から約10年ほどパリに滞在した。岡本はパリ滞在時にピカソの作品を見たことで衝撃を受け、キュビズムの手法を用いた作品を制作し始める。
中之島美術館 「展覧会 岡本太郎」
パリから帰国後も制作を続けた岡本は「太陽の塔」や「明日への神話」と言った作品を生み出した。岡本独特の手法にも見える表現には、キュビズムのベースがある。特にパリ時代に制作されたと言われている上記の絵は、キュビズム的な要素が分かりやすく提示されているだろう。
キュビズムの楽しみ方
知れば知るほど奥が深いキュビスムは美術館で見ても、なかなか楽しみ方が分からない人も多いだろう。ここからは、キュビズムの特徴に基づいた作品の楽しみ方について紹介する。
まず、少しおさらいとしてキュビズムの特徴を整理する。
キュビズムの主な特徴
・一点透視法などを使用しない多角的な視点で描かれている
・モチーフを抽象化して描く
これらの特徴を踏まえて、下記の女性画の作品を使って解説を行う。
よりキュビズムを楽しむ方法
1.それぞれのモチーフがどんな視点から描かれているのかイメージする
まず、顔の部分に注目してみよう。歪んだ目、横向きの口、正面に描かれた鼻。それぞれが別の視点から描かれていることが分かるはずだ。これらを1つ1つ注目し、そのモチーフから女性の全体像をイメージしてみよう。
例えば、唇と白いキャップのようなモチーフは横向きの顔で描かれているのかもしれない。そう思うと、そこから横向きの女性像が浮かんでくるだろう。それらを正面、左右、背後、斜め…。様々な女性の姿をイメージすることで、描かれている女性に対して複数のイメージが出来上がるだろう。
2.描いた作家がどんなイメージを持っていたのか空想する
描かれている女性に対して、いくつかのイメージを持ち始めると、次第に画家はどんな様子で彼女を描いていたのか気になってくるだろう。
もしかしたらデッサン画のようにモデルが停止した状態で描いていたのではなく、会話をしながら、たまにタバコを吹きながら、描いていた可能性もある。複数の女性のイメージから映像的に風景を捉えることもできる表現だからこそ、思い切って作家がその作品を描いていた時の様子を空想してみよう。
まとめ
いかがでしたか?
日本で大人気の印象派とも異なるキュビズムですが、抽象的な表現だからこそ味わえる魅力がありますよね。
今までは「ちょっと分からないな」と感じていたキュビズムの作品も、少し立ち止まってイメージすることで、新しい鑑賞体験が得られるでしょう。
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