ミクストメディアとは?キュビズムとは関係性は?絵画を例に技法を紹介
投稿日:(木)
目次
ミクストメディアとは?
ミクストメディアとは、異なる素材や技法を2種類以上使用して制作した作品を指す。主に作品のキャプションなどで用いられる文言。
文字通り異なる素材や技法で作られた作品はミクストメディアと定義できるため、絵画に留まらず、彫刻やインスタレーション作品などにも適用される。
ここからは主に絵画や彫刻作品で使われるミクストメディアの技法を紹介する。
絵画におけるミクストメディアで使われる技法
木材×折込チラシ
素材:OSB、折り込みチラシ、アクリルメディウム
OSBの合板にチラシを織り込む形でアカマツの様子を表現している。実際に素材の原料にアカマツが使用されている為、視覚だけでなく風合いからも作品を楽しめる1枚だ。
普段は建築に使用されることが多いOSB不燃ボードを作品の素材として使用した点が特徴的。使用されている素材は欧米から輸入された木材であり、それらの故郷に思いを馳せることが出来るような作品になっている。
視覚的に鑑賞を楽しむだけでなく、五感で素材を感じることが出来るようなアプローチは、単なる絵画ではないミクストメディア的な方法だと言える。
ろうけつ染め×刺繍
素材:ロウケツ染、ステッチワーク(刺繍)、綿布、反応染料、金糸
ロウケツ染とは、溶かしたロウを筆で布の上に置きその上から染料で染め、さらにロウを落とすという工程を何度も繰り返して染め上げる伝統的な染色技法である。
ロウが置かれた場所は染まらず防染される為、ロウを置く→染色する→さらにロウを落とす工程を繰り返すことで染料の層ができる。出来上がった層は厚みが生まれる為、作品全体として奥行きのある画面となる。
この作品は、その工程からさらに刺繡を施した1作であり、同じ技法でも1点づつ風合いが変わるのが特徴的だ。このように絵画=顔料、ペインティングというイメージから脱出し、テキスタイルの技法を数種類組み合わせる方法もミクストメディアの作品と言えるだろう。
彫刻作品におけるミクストメディア
和紙×銀箔×アクリルスタンド
素材:和紙、銀箔、アクリル絵具
和紙や銀箔を使用してドローイングした作品をアクリルスタンドにはめ込んだ1作。絵画ではなく「物体」として作品を存在させることで、後の世代に残すといった琥珀のような世界観を表現している。
絵画的な思考がメインでありつつも、そこにアクリルスタンドが加わることで物体として触れたり、光にかざしたり、多方面から見ることができる彫刻的な側面も生まれた。絵画は目で見て、正面が正確に決まっている作品に対し、彫刻は触れて、正面が正確に定められない作品もある。それらの点を踏まえると、この作品は絵画×彫刻といったミクストメディアになるだろう。
ミクストメディアの歴史とは?
先ほど紹介した作品のように、昨今ではよく目にする「ミクストメディア」だが、それらはどこからやってきたのだろうか?ここからはミクストメディアの歴史を辿りながら、日本における影響までを説明していく。
始まりはキュビズム
ミクストメディアの始まりはキュビズムが始まりと言われている。キュビズムとは、当時の絵画とは異なり、人間やモノを幾何学的な形として表現し、後の芸術史に大きな影響をもたらした手法だ。
引用:Tateキュビズムの時代にも幾つか時代区分があるが、特に総合的キュビズム(Synthetic cubism)には新聞などをコラージュする要素も含まれている。 現物として存在する新聞と絵画の組み合わせは当時の表現手法としては新しく、これが後の「コラージュ」の出発点とも言われている。
初期のキュビズム (Analytical Cubism)ではモノや人を分解し、抽象化する表現が発生した。そこから後期の総合的キュビズムでは、絵画だけの表現でなく、素材を用いた新たな表現へと発展したのだ。その中で、異なる素材を用いてより絵画の表現方法を広げようと試みたことは、今日のミクストメディアと共通するものがあるだろう。
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20世紀のアートシーンで拡大
キュビズムは「ミクストメディア」だけでなく様々な芸術様式に影響を与えた。しかし、キュビズムだけが今日に至る「ミクストメディア」を作った訳ではない。
キュビズムによって出発した「ミクストメディア」の定義をさらに広げて発展させたのはダダイズムである。ダダイズムとは、既存の既成概念を壊すことを重要とした芸術運動で、パフォーマンスなどの幅広い表現が活発化した。
引用:Tate特にダダイズムに影響を受けたジャン・ティンゲリーはガラクタだった金属、プラスチック、木材、電気モーターを使い、動く彫刻を作り上げた。実際に動きながらガチャガチャと音をたてる彫刻のため、パフォーマンスやインスタレーションとしての側面も持ち合わせている。
ティンゲリーの作品は、実際にゴミとして捨てられる予定だったものを再生し、組み合わせたものを作品としている。ゴミになる予定だったモノが、別のモノと組み合わされ新たに作品として生まれ変わる点では、これも立派なミクストメディアと言えるだろう。
様々な表現形式や芸術運動が活発化した20世紀。そんな中で生まれて発展した表現手法だからこそ、言葉の中にも様々な可能性が秘められていると言える。
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日本における影響
フランスで生まれたキュビズム、ヨーロッパ各地で発生したダダイズムによって進化したミクストメディアは、遠く離れた日本でも具体美術家協会によって継承された。
引用:Whitestone
具体美術家協会(具体美術、具体、GUTAI)とは、1954年に関西の若手の前衛作家たちによって結成された団体だ。「今までにないものを作る」ことをモットーに掲げた具体は白髪一雄、村上三郎、田中敦子など、多くの作家を輩出する。
日本の美術史を振り返る中でも必ず登場する具体美術家協会の中で、今回は後期具体を代表する名坂千吉郎を紹介する。
名坂は大学時代から日本画、洋画を学び、1965年に具体美術家協会に加入する。加入当時は絵画作品を制作していたが、キネティックアートに出会い、アルミパイプを用いた立体作品も制作するようになった。上記の作品もミクストメディアとして制作されており、土着的な荒々しさからはエネルギーを感じる。
名坂が加入した具体美術家協会はダダイズムの影響を大きく受けていた。既存の概念を壊し、今までにないものを作るという考えの元で、既存の手法に縛られない大胆で自由な作品が多く生まれたのだろう。
今回紹介した名坂以外にも、同時期に電球を衣装に縫い付けたパフォーマンスや墨や石などを用いた手法など数多くのアイディアと作品が生まれた。それらの作品が今日におけるミクストメディアの歴史として1つづつ紡がれていると言っても良いだろう。
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