世界の怖い絵20選|意味がわかると怖い絵から視覚的に怖い絵まで詳しく解説
投稿日:(木)
目次
私たちを魅了する世界の怖い絵たち
こんにちは。WASABI運営事務局のジョージです。
見たくないのに、なぜか私たちを魅了してやまない「怖い絵」
「怖い絵」といってもその種類は様々。
視覚的に恐怖を感じるものもあれば、作品の背景を知ることでゾッとするものも。
今回は、世界の怖い絵を聖書・神話・歴史・人々の営みの4つにわけてご紹介します。
これまで怖い絵を身漁ってきた筆者が選ぶ、最恐の作品 もご紹介するので、ご気分を悪くしないようほどほどにお楽しみください。
聖書を題材にした怖い絵
「我が子を食らうサトゥルヌス」
引用:我が子を食らうサトゥルヌス - Wikipedia
制作年 | 1819-1823年 |
画家 | フランシスコ・デ・ゴヤ |
「怖い絵画」といわれて、真っ先にこの作品を思い浮かべた方は多いのではないでしょうか。
ローマ神話ではサトゥルヌス、ギリシャ神話ではクロノスと呼ばれる時をつかさどる農耕の神。
「お前は自分の子どもの1人に倒される」という予言をおそれ、5人の子どもたちを生まれるたびに食い殺していくシーンを描いた作品です。
なんとも凄惨なこの作品は、全14点から構成される「黒い絵」シリーズの1つ。別荘で大病を患ったゴヤが制作しました。
間近に迫る死と、日々激しさを増すスペイン内乱の渦中に描かれたこの作品は、ゴヤが死に至るまで決して公に展示されることはありませんでした。
「ソドムの天使」
引用:ソドムの天使たち
制作年 | 1885年 |
画家 | ギュスターヴ・モロー |
煙を上げ、荒廃する町を見下ろす2人の天使。
ぼんやりとした表情と体の輪郭の曖昧さが得体の知れない不気味さを醸し出しています。
この作品は、旧約聖書に登場するソドムとゴモラの町を滅ぼすために派遣された天使たちの様子を描いたものです。手前で黒煙をあげるソドムの町に対して、天使を不自然に大きく描くことによって、恐怖の象徴としての天使を効果的に表しています。
「傷ついた天使」
引用:「異形のものたち――絵画のなかの怪を読む
制作年 | 1903年 |
画家 | フーゴ・ジンベリ |
似つかわしくない大人びた格好の少年らに連行される天使を描いた本作品。
隠された両眼、傷つき血を流す羽根、絵画全体に流れる重い空気、目に入る全ての情報が不穏な結末を感じさせます。天使が手に持つ小さな白い花。萎れかかったそれは、僅かな希望の象徴なのかもしれません。
▼天使を描いた有名な絵画作品10選|愛らしくも怖い天使を解説
「ホロフェネスの首を斬るユーディト」
引用:「ホロフェネスの首を斬るユーディト」作品解説
制作年 | 1598年頃 |
画家 | ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ |
解せぬ、と苦悶の表情を浮かべる男と、怪訝な表情で男の首に刃を振り下ろす美しい女性ユディト。
アッシリア軍に包囲された町ベトゥリアを救うため、シリアの将軍ホロフェルネスを誘惑し、酔いつぶれたところで首を切り落とす旧約聖書外典「ユディト記」の一場面です。
暗闇から突然現れたようなホロフェルネスの動的な描写と、白く美しい高潔なユディトの佇まいに、おぞましくとも惹きつけられます。
ここからはこの「ユディト記」の一場面を描いた作品を、2作品ご紹介します。
「ユディト Ⅰ」
引用:【作品解説】グスタフ・クリムト「ユディト Ⅰ」
制作年 | 1901年 |
画家 | グスタフ・クリムト |
将軍ホロフェルネスの首を抱え、恍惚とした表情を浮かべるユディト。
落とした首を持ち去る場面を描いた作品です。
ミケランジェロの《ホロフェネスの首を斬るユーディト》の暗い印象とは対照的な、明るい金色のコントラスト、華やかな装飾と表情。にもかかわらず、感じる恐怖は同じかそれ以上です。
多くの画家が、ユディトの勇気と高潔な性格を表現するなか、クリムトは「将軍を誘惑し、首を切り落とす」という行動の異常性を表現したのだといわれています。
「ホロフェルネスの遺体発見」
引用:「ホロフェルネスの遺体発見」
制作年 | 1470年 |
画家 | サンドロ・ボッティチェッリ |
先の2つの作品が、ユディトが首を落とした夜を描いた作品とするならば、ボッティチェッリの「ホロフェルネスの遺体発見」は、夜明け後も姿を現さないことに疑問を持った部下たちが、首を切り落とされたホロフェルネスの遺体を発見した場面を描いた作品です。
ユーディトはホロフェルネスの首を包囲されているベトゥリアに持ち帰り、ホロフェルネスを殺害したことをアッシリア軍に伝え、動揺し敗走したアッシリア軍を打ち破りました。
この逸話から、ユディトは多くの画家から英雄として描かれました。
神話を題材にした怖い絵
「メドゥーサの首」
引用:ペルセウスとメドゥーサ
制作年 | 1617年 |
画家 | ピーテル・パウル・ルーベンス |
ギリシャ神話の怪物メドゥーサ。髪の毛は無数の毒蛇、宝石のような目は、見た者を石に変えてしまう怪物が、ペルセウスに討ち取られた姿を描いています。
恐ろしい姿のメデューサですが、かつては美少女で特に自身の髪を自慢していました。しかしポセイドンの愛人となったため女神アテナの怒りを買い、醜く恐ろしい怪物の姿にされてしまったのです。
メドゥーサの醜悪な死に様を描いた作品であると同時に、女性の愛憎に満ちた悲劇的な作品ともいえますね。
「飽食のセイレーン」
引用:「怖い絵」展を観て特に怖かった6つの絵
制作年 | 1905年 |
画家 | ギュスターヴ=アドルフ・モッサ |
海の難所に現れ、その美しい歌声で男たちを惑わして襲うギリシャ神話の怪物セイレーン。後世では人魚として描かれるセイレーンですが、最古の伝承では怪鳥といわれていました。
現代的なかわいらしい顔の下には、口紅のように唇を染め、首筋、胸元へと滴り落ちる鮮血。血に塗れる猛禽類のような鋭い鉤爪と、こちらを見つめる瞳は、見る人に惨劇を予感させます。
この美とグロテスクの混在は、本作品ならではの魅力といえますね。
「キュクロプス」
引用:キュクロプス——女神ガイアと天空神ウラノスを両親にもつ一つ目の巨人
制作年 | 1898-1900年 |
画家 | オディロン・ルドン |
1つ目の巨人ポリュフェモスが、水の精霊の娘ガラテアに恋をするギリシャ神話を主題に描いた作品。
獰猛なモンスターとして描かれることが多いポリュフェモス。しかし、ルドンが描く巨人は、無防備な姿で寝そべるガラテアを岩陰からそっとのぞく、穏やかで臆病なモンスターとして描かれています。
ポリュフェモスの優しい視線に対し、背を向けて眠るガラテアの姿が、もどかしさと切なさを感じさせます。
歴史的な事件・人物を題材にした怖い絵
「レディ・ジェーン・グレイの処刑」
引用:レディ・ジェーン・グレイの処刑|Wikipedia
制作年 | 1833年 |
画家 | ポール・ドラローシュ |
イギリス初の女王、レディ・ジェーン・グレイの処刑の場面を描いた作品。
白いドレスを身に纏い諦観の表情を浮かべながら処刑台に手を伸ばすレディ・ジェーン・グレイ。処刑台へ誘導する司祭とそれを静かに見守る処刑人。泣き崩れる侍女たち。処刑の場面を描いたとは思えないほど、劇的で神々しい本作品は、現在に至るまで高い評価を受けています。
政争に巻き込まれ、若干15歳で女王に祭り上げられたレディ・ジェーン・グレイ。彼女は、在位わずか9日でメアリー1世によって廃位させられ、ロンドン塔に幽閉されたのち、その短い人生に幕を閉じました。
「シサムネスの皮はぎ」
引用:《逮捕》と《皮剥ぎ》 ダヴィッド
制作年 | 1498年 |
画家 | ヘラルド・ダヴィト |
ペルシアの汚職裁判官シサムネスが、ペルシア王カンビュセス2世の命令で全身皮はぎの刑に処されている場面を描いた作品。
当時の処刑は、イベントとしての意味合いが大きかったこともあり、多くの観衆に囲まれながら、刑を執行しています。
現在では考えられませんが、罪人が長時間苦しみ死に至る皮はぎの刑は、その凄惨な光景から見せしめとして、世界各国で行われていたポピュラーな刑でした。
「ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作」
引用:【作品解説】フランシス・ベーコン「ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作」
制作年 | 1953年 |
画家 | フランシス・ベーコン |
ヴェラスケスが描いた《インノケンティウス10世の肖像》をベースに、 教皇の口を開き、絶叫する様を描いています。
オリジナル版では強調されていなかった背後のカーテン、垂直方向の筆致のスピード感が得体の知れない絶望感を不安感を効果的に表現しています。
「イワン雷帝とその息子」
引用:イワン雷帝とその息子 - Wikipedia
制作年 | 1885年 |
画家 | イリヤ・レーピン |
老人は雷帝と呼ばれた暴君イワン4世。そして若い男性は息子の皇太子イワンです。この作品は、イワン4世と皇太子の衝突によって生じた悲劇的な出来事を描いたものです。
激高し、自身の感情の制御が出来なくなり、取り返しのつかないことしてしまったというイワン4世の表情が巧みに表現されています。
激情、悲観、そして自身への失望を、美しい構図と劇的なタッチで描いたこの作品は、世界中から高い評価を得ています。
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人々の営み・現実を描いた怖い絵
「あなたの息子を受け取ってください、旦那さま」
引用:”あなたの息子を受け取ってください旦那さま”の解説
制作年 | 1851~92年 |
画家 | フォード・マドックス・ブラウン |
筆者が最も恐ろしいと感じた1枚。
この未完の作品が描かれたのは19世紀の終わり。
貧乏な女性は愛人か娼婦になるしかなかった時代です。そんな女性たちが結婚できる唯一の可能性が、男の子と産むことでした。
聖母マリアがイエスを抱いているような神々しい構図は、女性にとって赤子が救世主のような存在だったからかもしれません。
女性の顔色が優れないのは、子宮から赤子を引きずり出しているからといわれています。
ちなみに、女性の背後の鏡に映る男性が赤子の父親でありこの作品の作者です。
女性と赤子はこのあとどうなったのか、なぜこの作品は未完なのか、嫌な方向に想像力を掻き立てられます。
「不幸な家族(自殺)」
引用:二コラ=フランソワ=オクターヴ・タサエール|Wikipedia
制作年 | 1852年 |
画家 | 二コラ=フランソワ=オクターヴ・タサエール |
すでに亡くなっていると思しき娘、生気を失っている母の目。生活が困窮した貧しい労働者階級の救いのない最期を描いた作品です。
当時のフランスでは、貧困に苦しむ人々が自殺するケースが多く、政府は経済的に苦しむ画家たちを支援するためにこの作品を注文しました。この作品はサロンで話題を呼び、その後も4つのバージョンが制作されるなど、多大な反響を呼びました。
しかし皮肉なことに、この作品の作者二コラ=フランソワ=オクターヴ・タサエールもまた、アルコール中毒になり練炭自殺を遂げています。
「殺人」
引用:殺人|Wikipedia
制作年 | 1867年頃 |
画家 | ポール・セザンヌ |
セザンヌが20代後半の頃、彼の作品には「殺人」が描かれていました。当時の小説や事件を題材にして描かれたとされますが、詳細は不明です。この時期、セザンヌは死やサディスティック、エロチックな作品を描いており、その激情が作品から感じられます。
彼は裕福な家庭に生まれながらも、画家を志しました。しかし、美術学校に受からず、長年サロンでも落選を続け、評価されることがありませんでした。
初期の激情な作品は、当時のセザンヌの不遇さからくるものが大きといえます
しかし、これらの作品はセザンヌ自身によってその大半が破棄されていまい、現在ではほとんど見ることはできません。
不釣り合いなカップル」
引用:老人と美女の絵画13点。金品と欲望の皮肉に満ちた、フランドルで流行した絵画主題
制作年 | 1472-1553年 |
画家 | ルーカス・クラナッハ |
現代でもあまりに年の離れたカップルや結婚は話題になりますが、15世紀ごろの西洋では現代以上に年の差婚が行われていました。
この作品では、いやらしい表情の老人と、したり顔で老人のカバンに手を入れる女性が描かれています。
この描写からわかるように、当時の年の差婚のほとんどが国政や貴族の血統の権力によるものだったり、金品や美貌、名誉の為だったりと、欲にまみれたものばかりでした。
「ジン横丁」
引用:ジン横丁
制作年 | 1751年 |
画家 | ホガース |
18世紀のロンドンで社会問題となっていた、外国産の安いジンによる下層階級の中毒症状を訴えるため、ジンによる堕落と荒廃を描いた作品です。
酔っ払って赤子が落ちていくことに気づかない女性。餓死寸前でもコップを離さない旧軍人。街の至るところでジンを飲み、狂乱するロンドン市民が随所に描かれています。
《ジン横丁》とは対照的に、英国産のビールを飲みながら楽しげに生活するロンドン市民を描いた《ビール街》も同時に公表されました。
「切り裂きジャックの寝室」
引用:ウォルター・シッカート|Wikipedia
制作年 | 1906年-1907年 |
画家 | ウォルター・リチャード・シッカート |
19世紀末のロンドンのイーストエンドには、娼婦たちを狙った猟奇的な殺人事件が起こっていました。その犯人は「切り裂きジャック」として知られ、犯行予告を新聞社に出すなどして、当時のロンドンを震撼させました。
この切り裂きジャックに対する異常な関心から、画家のシッカートは、彼が住んでいたと噂される部屋を借りて、この絵画を描きました。シッカートは、事件に関する情報や犯人像についての研究を熱心に行っており、当時のロンドン、切り裂きジャックの薄暗い暗黒面を巧みに表現しています。
誰も犯人が分からないはずなのに、なぜこの部屋が切り裂きジャックの部屋だと分かったのか、シッカートも当時容疑者の1人に名前が挙がっていました。
「クラブのエースを持ついかさま師」
引用:作品解説「クラブのエースを持ついかさま師」
制作年 | 1630年 |
画家 | ジョルジュ・ド・ラ・トゥール |
中央にいる2人の女性と左側にいる男性はグループです。金持ちで無知な少年が、トランプでいかさまをする場面が描かれています。
中央で目配せをする女性、若い娘がじっと少年の様子を見つめ、そして、とぼけた表情のいかさま師がいます。純粋でうぶな少年は自分のカードを見ていますが、3人の微妙な表情と目配りが状況をうまく表現しています。
まとめ
いかがでしたか。
今回は、世界の怖い絵を聖書・神話・歴史・人々の営みの4つのテーマに分けてご紹介しました。
「怖い絵」は、ただ怖いだけでなく、秘められた悲劇や怒り、メッセージが隠されています。その絵画としての深みが私たちを惹きつける理由かも知れません。
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