春画とは?その特徴や有名な画家の作品までわかりやすく解説
投稿日:(金)
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こんにちは。WASABI運営事務局です。
江戸時代の独特な芸術、春画。
かつては専門家の間でのみ知られていたこの浮世絵のジャンルも、最近の注目を受けて一般にも知られるようになりました。
性風俗画というイメージからか、官能的なものばかりと思われるかもしれませんが、芸術性の高い作品からクスッと笑える作品まで、バラエティに富んでいるのが春画の魅力です。
この記事では、そんな春画の成り立ちや歴史、有名な絵師の作品をわかりやすく解説します!ぜひこ参考ください。
春画とは
引用:Pinterest
「春画(しゅんが)」とは、江戸時代に流行した性風俗を描いた絵画のことです。他にも「枕絵(まくらえ)」や「危絵(あぶなえ)」あまりに馬鹿馬鹿しいことから「笑い絵」とも呼ばれました。
爆発的に流行したのは江戸時代ですが、その起源は古く平安時代に始まり、取り締まりが強化された明治まで続きます。
春画の使用目的は様々です。町人が自慰目的で楽しむ場合もあれば、姫の嫁入り指南書としても使用されたようです。
春画の流行のきっかけは中国の「春宮秘画」
引用:Wikipedia
性風俗の絵画自体は平安時代からありましたが、流行のきっかけは桃山時代に中国(当時の明)から伝来した「春宮秘画」という男女の交わりを描いた絵画の影響が大きいといわれています。
陰と陽のバランスが重んじられていた明では、男女の行為は体内のバランスを整えて、体を正常に保つ上で大事な要素だと考えられていました。
そして「春宮秘画」は健康法として、医学本に混ざって日本に伝来。「春画」と名前を変え、全国各地へ広まったといわれています。
春画の3つの特徴
1. 大きくデフォルメされた性器
引用:pictures
まず驚かされるのが性器の大きさです。男女ともに顔を同じくらいのサイズに大きくデフォルメされています。
春画が性的な絵画である以上、性器を目立たせて描くのは当然ではありますが、それ以外にも「男女和合」に対して、子孫繁栄につながるめでたいことという当時の認識が関係しているという説もあります。
確かに子孫繁栄を願ったお祭りが全国各地にありますが、どこも巨大な性器を祀っていますよね。
2. 基本的に着衣で交わる
引用:
春画には、衣服を着たままの人物が性的な行為をしている絵が数多く見られます。この特徴は、錦絵が流行し始めた時期から特に目立つようになりました。
浮世絵・木版画の一種。とてもカラフルで、錦(にしき:高級な織物)のように美しいことから錦絵と呼ばれました。
衣服のデザインや種類によって、描かれている人物の社会的な立場や職業を読み取ることができるのは、春画を楽しむ上で重要なポイントです。
豪華な髪飾りを持つ遊女、前掛けを身につけた商人、腹巻を巻いた職人など、それぞれの特徴を持つ人物を意識して観察すると、その背景や生活が感じられます。
3. 奔放すぎるテーマ
春画の魅力はなんといっても奔放すぎるテーマとその豊富さです。
浮気ものや男性同士の交わりはもちろんのこと、タコや獣、果ては妖怪や人魚までなんでもありです。
もはや描いていないテーマはないのでないかと思わせるほど、当時の想像力に驚かされます。春画が「笑い絵」なんて呼ばれていたのも頷けますね。
春画の歴史
平安時代の春画
引用:note
春画のルーツは平安時代に遡ります。
当初、春画は単なる性的な欲求を満たすためのものではなく、新婦の性に関する教育の手引きや、災害を避けるお守りとしての役割も果たしていたとされています。
商人たちは、倉庫の火事を防ぐためのおまじないとして春画を置いていたとも言われています。
さらに、世界遺産である法隆寺の五重塔の天井裏には、大工が描いたとされる春画が存在しており、これも火事を防ぐためのおまじないとして描かれたと考えられています。
戦国時代の春画
引用:永青文庫「春画展」
戦国時代、室町時代の後半にかけて、絵師たちが春画を次々と描き始めました。
その頃の中国は明時代で、日本との貿易が盛んでした。この日明貿易の中で人気の輸出品として知られる扇子にも、春画が描かれていたことが、中国の古文書からも確認できます。
さらに、桃山時代に入ると、中国の明から「春宮秘戯図」という作品が日本に伝わり、出版されました。これがきっかけで、春画の制作がさらに活発化しました。
この時代、武士たちは戦の際、鎧の下に春画を隠し持ち、それを幸運のお守りとしていたとも伝えられています。彼らは春画を「勝絵」と称し、縁起の良いアイテムとして扱っていたのです。
江戸時代の春画
江戸時代が始まると、「春本」と称される、性的な内容を直接的に描いた読み物が市場に登場しました。
多くの著名な浮世絵作家が春画を手掛け、これが庶民の間で一大トレンドとなりました。
井原西鶴の作品「浮世草子」や「好色一代男」のような人気作が登場し、これに伴い「好色物」という新しいジャンルが生まれました。このジャンルの中で、春画は挿絵としての役割を増していきました。
しかし、享保の改革で好色本の出版が禁じられることとなります。それでも、裏市場では好色本の取引が盛んに行われていました。
一方で、規制の手が及ばなかった春画は、技術的にも進化を遂げ、浮世絵の高度な技法を駆使した色鮮やかな作品が次々と生み出されました。
明治の春画
明治時代になると、春画のスタイルが大きく変わり、主に「性的な行為」の描写だけで成り立つようになりました。
この時代の著名な春画家、富岡永洗や武内桂舟の作品を見ると、背景が描かれていないことが多く、これから「エロティックな表現」が中心となったことが伺えます。
さらに、新しい明治政府の方針として、春画や艶本に対する取り締まりが強化されました。この結果、人々の中で春画を古くさい、恥ずかしいものと見る風潮が強まりました。
このような背景から、明治以降、春画の人気や価値は徐々に低下し、その存在感が薄れていったのです。
春画を彩る有名な絵師と作品を解説
勝川春章
勝川春章は、18世紀後半の浮世絵師で、特に美人画で名を馳せました。彼の作品は、女性の優雅さや繊細な美しさを鮮やかに描き出しています。
春章の代表作には「美人鑑賞図」などがあり、その独特の画風とスラっとした女性の描き方で多くの人々を魅了しました。
「拝開よぶこどり」
引用:X
こたつの中で抑えきれなくなった男性が女性を押し倒しているという構図。
地の文を読むと「人が来ますよ」と言ってかわいらしく抵抗する娘さんに対し、男性は「子どもじゃあるまいし、じっとしてなよ」となかなか強引です。
性交に興じる男女の会話に嫌気をさした猫のあくびが、作品全体に緩急をもたらしています。
菱川師宣
菱川師宣は、18世紀初頭の浮世絵師として知られ、特に風俗画や美人画でその名を馳せました。彼の作品は、繊細な筆使いと独特の色彩で、当時の日常や風俗を生き生きと描き出しています。
春画の分野においても、師宣はその才能を発揮。彼の春画は、官能的なだけでなく、人々の日常や情緒を巧みに表現しており、その独自のスタイルで多くのファンを魅了しました。
「恋の極み」
菱川師宣の春画集「恋の極み」から抜粋した1コマ。
衣類をはだけ、ことに及ぼうとしたその刹那、何かの気配に気づいたのでしょうか。無表情ですが、硬直した体と2人の目線に妙な緊張感を感じるシュールな春画です。
鳥居清長
鳥居清長は、18世紀後半の江戸時代に活躍した浮世絵師です。
清長は、浮世絵の先駆者として知られる鳥居家の一員で、その名を広める役割を果たしました。
彼の作品は、劇場や歌舞伎の役者を中心に描かれ、その独特の色彩と動きのある構図が特徴的です。また、彼の筆使いは、役者の表情やポーズを鮮明に捉え、観る者の心を引き込む力がありました。
清長の作品は、役者絵のジャンルを確立し、後の浮世絵師たちに新しい方向性を示すきっかけとなりました。
「袖の巻」
世界三大春画の1つに数えられる「袖の巻」。
浮世絵にはめずらしい横長の画面を用いたレイアウトで、華美な装飾ををそぎ落とし、シンプルな線描で美しさを表現しているのが特徴です。
痛みか悦びか、手の甲を噛み締め悶える女性と、冷静に相手の反応を伺う男性との「静」と「動」の対比が美しい傑作となってします。
鈴木春信
鈴木春信は、江戸時代中期に活躍した浮世絵師で、繊細な美人画を得意としていました。
彼は「錦絵」という多色摺りの技法を確立し、これが浮世絵の大きな進化として受け入れられました。この技法の普及により、錦絵の人気が高まり、多くの新たな画家が登場しました。
春信の影響は、司馬江漢や鳥居清長などの後の浮世絵師たちにも及び、彼の功績は浮世絵の黄金時代を築く基盤となりました。
「風流艶色真似ゑもん」
春信の艶本『風流艶色真似ゑもん(ふうりゅう えんしょく まねえもん)』(1770年)は、秘薬で小さくなってしまった主人公・浮世之介が「真似ゑもん(まねえもん)」と名乗り、色道の奥義を探求するという物語。
小人になって情事をのぞくという、かなりコメディ色が強い作品です。
ちなみに右上の文机の脚の穴から指をくわえて情事を眺めているのが、真似ゑもんです。
喜多川歌麿
喜多川歌麿は、江戸時代に活躍した浮世絵師で、錦絵から絵本、そして肉筆浮世絵に至るまで、多岐にわたる作品を生み出しました。
歌麿が描いた傑作「美人大首絵」は、1790年頃から庶民の心をつかみ、その独特の美人画が江戸中で話題となりました。彼の描く女性は、優雅で繊細な美しさが特徴で、その色彩や線の美しさは他の画家と一線を画していました。
「ねがひの糸口」
喜多川歌麿の春画組物「ねがひの糸口」から抜粋した1コマ。
女性の乱れ流れる黒髪の美しさに目を奪われますが、注目していただきたいのは鏡。鏡にチラリと映った白い足の指先がなんとも官能的でお洒落です。
女性美を描き続けた歌麿のフェチシズムを感じます。
歌川豊国
歌川豊国は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師で、実は「歌川豊国」という名前は、数代にわたる画家が名乗った名前であり、特に二代目が最も有名です。
歌川豊国は、浮世絵の技法や表現の幅を広げ、多くの後進の浮世絵師に影響を与えました。特に「名所絵」のジャンルでの彼の業績は、後の風景浮世絵の発展に寄与したと言われています。
「逢夜雁之声」
ただの読書シーンに見えるこの春画。
しかし、細部に注目すると、女性が読みほどける本は官能的な内容の艶本で、男女の情熱的なシーンに目を奪われている様子。
さらに、女性の机の下には、男性の器官を模したアダルトグッズ、張型が隠れています。これを踏まえ改めて女性に目をやると、小指を口に運ぶ仕草が一層官能的に映えます。
ちなみに、江戸時代には多種多様なアダルトグッズが存在していました。幕末の著名な絵師・渓斎英泉が手掛けた性の教本『枕文庫』にも、その時代の多彩なアイテムが紹介されています。
歌川国芳
歌川国芳は、江戸時代後期の19世紀に活躍した浮世絵師。彼は歌川派の一員として、多くの作品を残し、その名は浮世絵界において高く評価されています。
国芳の作品は、武者絵や動物を題材としたものが特に有名。彼の描く猫や犬、さらには幕末の武士たちの姿は、独特のタッチと色彩で描かれ、非常に人気がありました。
「吾妻文庫」
紺や真紅、金と鮮やかな色彩が印象的な国芳の春画は、その高い芸術性から世界各国で高い評価を受けています。
また、国芳の春画といえば口元を隠した女性が多いのも特徴です。鮮やかな色使いとは対照的な、女性の恥じらいや奥ゆかしさに惹かれますね。
葛飾北斎
葛飾北斎は、江戸時代後期に活躍した日本を代表する浮世絵師。1760年に生まれ、90歳近くまで生涯を創作活動に捧げました。
北斎の作品は、その独特の構図と色彩で知られ、特に「富嶽三十六景」の中の「神奈川沖浪裏」は世界的に有名です。彼は自然や日常の風景を独自の視点で捉え、その鮮やかな色彩と線の美しさで多くの人々を魅了しました。
「蛸と海女」
葛飾北斎の「蛸と海女」は、彼の代表的な春画として知られ、春画本『喜能会之故真通』に収められています。
この作品は、蛸が海女の体を愛撫する様子を、詳細な画とともに文字で緻密に描写しています。この文は、現代で言えば官能小説のような性質を持っています。
人間×生物という時代を先取りしたアブノーマルな描写に、江戸時代の自由で開放的な気風が感じられます。
まとめ
春画は、日本の性風俗を映し出すだけでなく、芸術的価値も高い作品として知られています。
近年、その魅力に再び光が当たり、春画展などのイベントも増えてきました。生の作品に触れる機会も増えています。
もし機会があれば、春画の深い魅力を実際に体感してみてはいかがでしょうか。
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