新印象派とは|西洋美術史の革命的絵画を解説
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こんにちは。WASABI運営事務局のシナモリです。
日本でも特に人気の高い、印象派の画家たち。
モネやルノワール、やがてゴッホへと繋がっていく流れの中で、短くも鮮烈な光を放ったのが「新印象派」の時代でした。
今回は、美術史上重要な作品であるスーラの絵画を中心に、その技法や評価について解説します。
概要:新印象派とは

ジョルジュ・スーラ 『サーカスの余興』 / メトロポリタン美術館
特にジョルジュ・スーラとポール・シニャックの作品が代表的です。
最大の特徴は、印象派の表現を科学理論に基づき発展させた点描技法。
その精緻な作品は賛否両論を受けながらも、後世の画家たちに影響を与えました。
「新印象派」という呼称は、美術評論家のフェリックス・フェネオンがスーラの作品を評した際に使用したものです。
同時代の印象派、後期(ポスト)印象派との区分が複雑に感じるかもしれませんが、それぞれに表現方法や重要視した点が異なります。
印象派の特徴

クロード・モネ 『印象・日の出』 / マルモッタン美術館
同じく19世紀後半のフランスで活躍し、一瞬の光や色彩の変化を主観的に表そうとしたのが印象派の画家たちです。
自然主義の影響やチューブ絵具の登場により、戸外での制作も多く行われるようになりました。
輪郭を描かず、絵筆の跡で色を重ねた表現は、発表当初批判を受けました。
しかしその評価は少しずつ高まり、現在では世界中で人気を博しています。

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後期(ポスト)印象派の特徴
ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌなどの後期印象派は、技術的には印象派の影響を受けながらも、さらに個人の内面表現を重要視しました。
彼らは力強いタッチと鮮烈な色彩で、より感覚的に描いていきました。
概ねグループとして活動した印象派とは異なり、画家それぞれが独自に芸術を追究したことも特徴です。
特にセザンヌは「近代絵画の父」と呼ばれ、対象物を図形に置き換えたり、複数の視点を共存させた手法が後のキュビスムに繋がっていきます。

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絵画技法の発展
スーラが開拓したのは、光学・色彩学に基づいた理論的な描き方でした。
それは現代における、ピクセルの概念を絵画に表した革新的なものです。
ここでは、新印象派の絵画技法を具体的に見ていきましょう。
絵具の性質と効果

ピエール=オーギュスト・ルノワール 『ラ・グルヌイエール』 / 国立美術館

筆触分割 (イメージ)
それまで物理的に混ぜていた絵具を、鑑賞者の網膜上で混ぜて見せる「視覚混合」の原理です。
これは筆触分割と呼ばれる方法ですが、さらに発展させたのがスーラの点描技法です。

減法混色 (CMYK)…三色混ぜると黒になる

加法混色(RGB)…三色混ぜると白になる
この現象を減法混色といい、光の三原色(加法混色)とは相対します。
印象派の描き方は筆の跡が大きく不揃いであり、絵具が重なった部分では色が暗くなってしまいます。

ジョルジュ・スーラ 『サーカスの余興』 / メトロポリタン美術館 (部分)
色の粒(ピクセル/ドット)が増えるほど密度(解像度)が高くなり、絵はより鮮明に見えます。
このように、スーラは色彩理論と光学に基づき絵画を発展させた先駆的存在でした。
彼は自身の技法を「色彩光線主義」と呼び、独自に研究し続けました。
補色対比

補色対比と色相環のイメージ
色相環上で正反対にある色同士を補色といい、隣接させるとお互いが最も際立ちます。
ロマン主義の画家ドラクロワは、既に光と影の補色関係を研究し、絵画に取り入れていました。
スーラもこの補色を意識的に配置して、画面全体が映えるよう計算して描いています。
グランド・ジャット島の日曜日の午後

ジョルジュ・スーラ 『グランド・ジャット島の日曜日の午後』 / シカゴ美術館
スーラが辿り着いた絵画技法の集大成が、代表作『グランド・ジャット島の日曜日の午後』です。
約2m×3mという大作で、フランスに実在する島の光景を描いています。
前述の手法に加え、中央の少女やヨットの帆、犬、日傘などで白を点在させることにより、陽に当たった部分の輝きを強調しています。

ジョルジュ・スーラ 『グランド・ジャット島の日曜日の午後』(習作)
習作の多さとそれぞれの細かな違いから、熱心な試行錯誤が伝わってきます。
描かれているもの
19世紀のパリでは鉄道の発達に伴い、休日を郊外で過ごす人々が増えていました。
この作品では、労働者の姿や最新のファッションなど、近代化する風俗を表現しています。
特に女性たちが持っている傘は、当時最先端の技術で作られた形です。


ジョルジュ・スーラ 『グランド・ジャット島の日曜日の午後』 (部分)
手前の犬に比べて薄く透けるように描かれており、これは概念として表現した為だと言われています。
猿は「情欲」「悪徳」の象徴であり、彼らが只ならぬ関係=既婚者と娼婦である事を示唆しています。
実際、グランド・ジャット島はブルジョワジーと娼婦の出会いの場でもありました。
陽の当たる場所と日陰のコントラストには、社会の光と闇が表現されています。


パルテノン・フリーズ
確かに、人物同士に感情のつながりは見えず、不自然な印象を抱きます。
スーラはアカデミー時代に古典彫刻などに触れ、インスピレーションを受けていました。
この作品では、古代ギリシャの浮彫彫刻パルテノン・フリーズを現代の人々の姿で表現する意図があったようです。

ジョルジュ・スーラ 『グランド・ジャット島の日曜日の午後』(部分)
そして完成後はスーラ自身が、現在収められている物と同じような白い額を選んだそうです。
画面の端まで色彩を意識した彼の拘りは、並々ならぬものでした。
最後の印象派展

第8回 印象派展ポスター
ピサロは第8回目の印象派展にスーラとシニャックの作品を展示しますが、この事が画家たちの間に決定的な亀裂を生みました。
モネやルノワールは出品を止めて各々制作を進めるようになり、印象派展もこれが最後の開催となりました。
『グランド・ジャット島の日曜日の午後』は、グループとしての印象派を終わらせた象徴的作品として、西洋美術史上に刻まれています。
新印象派の確立:スーラとシニャック
ジョルジュ・スーラ

ジョルジュ・スーラ
国立美術学校で絵画を学びますが、兵役などにより1年程で退学。
その後は色彩理論などを独自に研究し、1883年のサロンで入選を果たしました。
翌年に完成した『アニエールの水浴』には、部分的に点描技法が見られます。
当時から制作の為に念入りな下準備を重ねており、多くの素描を残しています。

ジョルジュ・スーラ 『アニエールの水浴』 / ナショナル・ギャラリー
無審査で出品できるアンデパンダン展を開催します。
1886年に完成させた『グランド・ジャット島の日曜日の午後』は否定的な声を多く受けますが、美術評論家のフェネオンは「新印象派」(néo-impressionniste)という言葉を用いて称賛しました。

ジョルジュ・スーラ 『ポーズする女たち』 / バーンズ財団蔵
光と色の表現に特化した半面、人物の躍動感や温かみに欠ける点は否めません。
『ポーズする女たち』は、その指摘への反論を含んだ作品です。
女性たちはポーズを取り、絵画モデルの仕事中であることがわかります。
しなやかで温度感のある肌は、前作よりも人間味を強調して描かれています。
ただし背景には『グランド・ジャット島の日曜日の午後』が置かれ、スーラの強い矜持が伺えます。

ジョルジュ・スーラ 『サーカス』 / オルセー美術館
妻子を持ちながらそれを公言することもなく、寡黙に絵画と向き合い続けました。
几帳面で研究熱心な性格が、作品にも存分に表れています。
『サーカス』では動きのある新しい表現に挑戦しますが、制作途中で病に倒れ、31歳という若さでこの世を去りました。
ポール・シニャック

ポール・シニャック
1863年にパリで生まれ、建築の勉強を経て絵画に転向しました。
モネの展覧会を観て感銘を受けたシニャックは、印象派絵画で本格的に画家を目指します。
しかし、1884年にスーラと出会ってからは新印象派の技法に傾倒。
以降は点描で作品制作を行うようになります。

ポール・シニャック 『朝食』 / クレラー・ミュラー美術館
そしてスーラの死後、多くを語らなかった彼の代わりに、新印象派の理論を広く知らしめることになりました。
すでに色彩理論を取り入れていたウジェーヌ・ドラクロワを研究し、1899年には「ドラクロワから新印象主義まで」を出版します。

ポール・シニャック 『カシスの桟橋』 / メトロポリタン美術館

ポール・シニャック 『サン=トロぺの松』 / プーシキン美術館
『カシスの桟橋』のように当初は爽やかな色合いで描いていましたが、スーラの死後には変化が現れています。
筆触もスーラの点描より大きく、ビビッドな色彩は彼の人柄が伝わってくるようです。

ポール・シニャック『「七色に彩られた尺度と角度、色調と色相のリズミカルな背景のフェリックス・フェネオンの肖像』 /ニューヨーク近代美術館
色と形のみで表現された背景は、日本の浮世絵や科学的理論に基づくものです。
野獣派の代表的な画家マティスは、筆触分割の他にもこの抽象的な表現方法に大きな影響を受けています。
画家たちは常に先人に学びながらも、やがて独自の表現に辿り着きます。
写真技術も発達し、絵画の意義はありのままを描くことから、個人の内面表現へと変化していきました。
まとめ
ルネサンス前後でも、学問と芸術の融合は大きなテーマでした。
そしてスーラが点描技法に辿り着いたことで、絵画はさらに新しい方向に進み始めます。
感情と理性、規律と自由など、相反する要素が交互に隆盛してきた美術史。
現代では、美術の多様性がますます広がっています。
それは、芸術家たちが固定観念を覆し、道を切り拓いてきたからこそだと改めて実感します。
ぜひ様々な作品を直接鑑賞し、色の描き方を観察して楽しんでみてください。
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