【日本のコラージュアート】岡上淑子から河村康輔まで!コラージュの歴史と魅力、人気作品を解説
投稿日:(木)

目次
コラージュアートといえば、斬新でモダンな芸術というイメージがあるかもしれません。
実はその起源は意外に古く、現代にいたるまでに様々な変化を遂げてきました。
今回は、コラージュアートの魅力や歴史、日本で活躍するコラージュアーティストについてご紹介します。
是蘭 コラージュ作品特集
コラージュアートとは?

出典: Artpedia
コラージュの語源は、「糊で貼る」を意味するフランス語のcoller(コレー)です。
やがて、写真や新聞、布など多様な素材を切り貼りする芸術技法を指す言葉となりました。
本来あり得ないようなモチーフの組み合わせが生み出す、幻想的で意外性のある視覚効果はコラージュの大きな魅力です。
現代では個人の自己表現や、心理療法の一技法としても活用されています。
高度な技術を必要とせず、「絵が描けない」という方でも手軽に始められるアートです。
コラージュアートの起源と変容
コラージュの起源については諸説ありますが、その概念は芸術技法として確立されるよりも遥か昔から存在していました。
ここでは、世界各地における起源と、日本での独自の発展について見ていきましょう。
1. アート以前:装飾と工芸としての「貼り合わせ」

出典: Pinterest
コラージュの原型となる技術は、世界各地で古くから使われてきました。
●中国 (紀元前200年頃):
紙の発明とともに、様々な用途で紙が加工・使用される基盤が確立しました。
紙を素材として組み合わせる工芸的な試みはここから始まります。
●日本 (10世紀頃/平安時代):
継ぎ紙(つぎがみ) や料紙装飾として、異なる色や模様の紙を重ねて貼り合わせ、装飾的な美しさを追求しました。
これは芸術というよりも、書を引き立てるための工芸技術としての側面が主でした。
●ヨーロッパ (13世紀以降):
中世の教会美術では、聖なる対象の表面に金箔や宝石を貼り付け、装飾を施す技法が発展しました。
17世紀には、紙のモチーフを切り貼りしてニスでコーティングする「デコパージュ」が流行し、これが現代的なコラージュ技法の原型となりました。
2. 芸術作品としての確立(20世紀初頭)

パブロ・ピカソ『ヴュー・マールの酒瓶、グラス、ギター、新聞』
「貼り合わせ」が工芸から純粋な芸術表現へと昇華したのは、20世紀初頭のヨーロッパが起点です。
●キュビスムによる発明(1912年):
パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックが、キュビスムの表現として「パピエ・コレ」(Papier collé=貼り付けた紙)を導入します。
彼らはキャンバスに対して、絵の具の代わりに新聞紙や布などを直接貼り付けました。
これは、絵画の伝統的な平面性を打ち破る、アート史における大きな転換点とされています。
●前衛芸術運動での継承(1910年代後半):
ピカソらによって導入されたコラージュは、その後のダダイスムやシュルレアリスムといった前衛的な芸術運動で取り入れられました。
特にシュルレアリスムの旗手マックス・エルンストらは、コラージュを「既成のイメージを転用し、無意識を表現する」重要な手段として昇華させています。

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日本のコラージュアート:発展と系譜

岡上淑子『招待』
西洋でのアートとしての確立を受け、コラージュは戦後の日本で独自の発展を遂げます。
戦後のパイオニア:岡上淑子の登場(1950年代)
戦後の日本に欧米の前衛芸術運動が伝わる中、岡上淑子は独自のシュルレアリスム・フォトコラージュを展開しました。
彼女は海外のファッション雑誌の切り抜きを素材に、モノクロームで幻想的な夢の世界を構築します。
抑圧を受ける女性の内面を表現した作品が、国内外で高く評価されました。
岡上淑子は、日本におけるコラージュアートの先駆者として位置づけられています。
ポップ化と多様化(1960年代以降)
コラージュは純粋芸術の枠を超え、大衆文化やデザインへと浸透していきました。
ポップアートの影響を受け、横尾忠則らがグラフィックデザインやポスターにコラージュ手法を導入。
写真やイラストの断片を大胆に組み合わせ、視覚的なショックや大衆文化批評の手段として広く普及させました。
デジタル技術との融合(2000年代以降)
現代ではデジタル技術も活用され、コラージュの表現領域はポップカルチャーにまで広がっています。
著名なアーティストがストリートカルチャー、ファッション、漫画・アニメなどと積極的にコラボレーションすることで、コラージュをメジャーな表現へと押し上げました。
代表的なコラージュアーティスト
ここでは、現代の日本で活躍する代表的なコラージュアーティストをご紹介していきます。
河村康輔

出典: ARC’TERYX
素材を自らの手やシュレッダーで裁断し、ミリ単位で配置するという彼ならではの手法は、これまでのコラージュアートとは一線を画します。
写真や画像を再構築することによって生まれる「ズレ」と「歪み」が、見る人の頭を混乱させ、河村康輔の作品の世界へと引き込みます。
2022年4月には、ユニクロのグラフィックTシャツブランド「UT」のクリエイティブ・ディレクターに就任。
その後もドキュメンタリー番組への出演や、藤井風、anoといった人気アーティストのアートワーク、アニメ『ダンダダン』とのコラボ商品を発表するなど、精力的に活動を続けています。

Photo by Instagram

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GHOST IN THE SHELL x Kosuke Kawamura x atmos

木村カエラ『ZIG ZAG』アートワーク

藤井風『へでもねーよ』アートワーク
shusaku takaoka

出典: STUDY BREAKS MAGAZINE
遊び心に富んだユニークな作品を制作するコラージュアーティストです。
映画やアニメ、雑誌、街の光景など、生活の中で刺激を受けた「おもしろいもの」を主軸としています。
特に、モナ・リザなどの有名な絵画を現代風にコラージュした作品がInstagramで話題になり、国内外で注目を集めました。
原宿の「PIZZANISTA! TOKYO」とのコラボレーション『The Last Slic』のほか、反戦の意志を込めた作品『STOP WARS』など、ユーモアやメッセージ性を含んだ多様な作品を制作しています。
25枚限定で制作された『祈りと手洗い』は、祈りを捧げる両手に石鹸をコラージュすることによって、新型コロナウイルス収束への願いを表現しています。
本作品の収益は、国立国際医療研究センターに全額寄付されました。

『祈りと手洗い』

Photo by instagram

『The Last Slic』

『STOP WARS』
Yabiku Henripue yudi(ヤビク・エンリケ・ユウジ)

出典: Post-Fake
ブラジルにルーツを持つコラージュアーティストであり、その多文化的な視点と、大胆な素材の衝突が特徴です。
彼は従来の紙やデジタルプリントに加え、木版、ガラス、トタンといった立体的な素材を積極的に用い、作品をミクストメディアへと拡張しています。
彼の制作スタイルは「偶然」と「衝突」。
テーマを決めずにコラージュを行う過程で発生する、予期せぬノイズやハプニングを重視します。
単なる装飾的な美しさではなく、素材の物質感と、それらがぶつかり合うことによって生じる力強い表現が高く評価されています。

『Untitled_04』

『Last Minute』

『1_2021.10.14』

『Saturday Night』
yama

出典: MONOLiTH
対比する素材を組み合わせ、”調和や刺激”を表現するコラージュアーティストです。
素材から感じた印象や得たインスピレーションによって、先入観に捉われない作品を数多く制作しています。
抜群の色彩感覚とモチーフ選びが無二の世界観を生み出し、ニューヨークのギャラリーでも展示されるなど今後の活躍がますます期待されています。

『scratch』

『fragment』

『コラージュ怪獣 Ⅱ』

『調和』
WASABIおすすめのコラージュ作品
WASABIでは、若手から実力派まで、多様な表現を持つコラージュアーティストの作品を取り扱っています。
ここでは特におすすめの作家をご紹介しますので、ぜひお気に入りの作品を見つけてみてください。
是蘭

是蘭『ある暗示』
【技法/画材】: コラージュ
【サイズ】: 188mm×117mm、額縁サイズ400mm×307mm、厚さ22mm
印刷物から素材を選び、切り貼りで構成したアナログコラージュ作品です。
世界的に知られるモナリザの目の部分と東洋的なモチーフを組み合わせ、文化や歴史の境界の融合を表現しています。
不思議で意味ありげな空気を醸し出し、見る人の関心を惹きつけます。

是蘭『こぼれる』
【技法/画材】: コラージュ / アクリル絵具、墨、白墨、インク、グリッター
【サイズ】: 144mm×204mm、額縁サイズ350mm×375mm、厚さ15mm
古典絵画の女性の顔や古い伝票、数学の公式など、多様なイメージで構成されています。
瞑想する顔と透明な膜が、下の層の色を透かし、視覚的な奥行きを生み出します。
夜中にふと感じる「夢の名残」のような、不思議で神秘的な感覚を楽しめる作品です。

是蘭について
富山県出身。コラージュや版画、AIなど多彩な技法による「偶然」を活かすプロセスで、全てが関わり合いながら変化する「空(くう)」の概念を、現代的に表現しています。
HELI

HELI『レザーのコラージュアート(RABBIT) 革 A5サイズ 木製パネル 一点物』
【技法/画材】: 本革とヴィンテージ雑誌を木製パネルにコラージュ
【サイズ】: 210mm×148mm、厚さ20mm
革のハギレとヴィンテージ雑誌を組み合わせた、唯一無二のレザーコラージュです。
ウサギのスピード感と革の風合いが対照的に配置され、ユニークでモダンな雰囲気を醸し出しています。
玄関やリビング、デスク周りをスタイリッシュに彩るアートパネルです。

HELI『レザーのコラージュアート(ハチワレ猫) 革 A5サイズ 木製パネル 一点物』
【技法/画材】: 本革を木製パネルにコラージュ
【サイズ】: 210mm×148mm、厚さ20mm
ブラックとベージュのレザーで繊細に表現された、ハチワレ猫の表情が魅力的な一枚。
こちらを見つめる真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうです。
ハチワレ猫は「八」が末広がりであることから幸運のシンボルとされ、リビングや子供部屋に最適な作品です。

HELIについて
主にレザーでコラージュアートを作成しています。革本来持の風合いや質感、革の重なり合う凸凹感が、独特の美しい表情を生み出しています。
CRAFT-Log.(井上陽子)

CRAFT-Log.(井上陽子)『Marrakech series 2023-78【アートプリント】』
【技法/画材】: ジークレー、デジタルプリント
【サイズ】: 大全紙〜A3サイズまで対応
モロッコのマラケシュ旧市街の喧騒や赤褐色の壁をモチーフにした作品です。
落ち着いた色彩と抽象的なレイヤーが、記憶や想像を促す奥行きのある世界を構成しています。
お部屋の雰囲気を変えたい方や、北欧モダンな空間演出にぴったりのアートプリントです。

CRAFT-Log.(井上陽子)『Bologna series 2024-24【アートプリント】』
【技法/画材】: ジークレー、デジタルプリント
【サイズ】: 大全紙〜A3サイズまで対応
イタリアの画家モランディの故郷ボローニャの街並みから着想を得たコラージュ作品です。
赤、黒、ベージュを基調としたモダンな色彩と直線的な構成が、洗練された空間を演出します。
力強さと温かみを併せ持ち、視覚的なインパクトを与えるアートプリントです。

CRAFT-Log.(井上陽子)について
コラージュ作家、イラストレーター。 作品集の出版、メーカーとのコラボレーション、店舗・ホテルのアートワークスを多数手掛けるなど精力的に活動中。
ムネアツシ

ムネアツシ『Collage mark 06 よしよし』
【技法/画材】: アクリル、古雑誌のコラージュ(ベニヤパネル)
【サイズ】: 333mm×455mm / P8号
人と機械の部品を組み合わせた構成が、グロテスクながら不器用な優しさを感じさせる作品です。
「よしよし」というテーマの通り、不気味さと温かさが混ざり合った独特な世界観を構築しています。
落ち着いたカラーで構成されており、シックな雰囲気の部屋に深みを与えてくれるでしょう。

ムネアツシ『愛云』
【技法/画材】: アクリル、インク(ベニヤパネル)
【サイズ】: 410mm×318mm/F6号
「愛」と「云」を組み合わせた独自の漢字が大胆に描かれ、強いクールさを放つ作品です。
コードを繋ごうとするキャラクターの愛らしさとの対比が、独特な世界観を生み出しています。
シンプルなモノクロームの中に赤と青のコードが映え、空間に視覚的な深みを与えてくれます。

ムネアツシについて
大阪府在住。金属スクラップやグラフィックなどをモチーフとして、グロテスクかつファンタジックな世界を描き出す。アート制作、イラスト、ライブペイント等で活動中。
上野瑠美

上野 瑠美『BEYOND THE SKY 2025.5 06』
【技法/画材】: コラージュ、アクリルガッシュ、色鉛筆など
【サイズ】: 260mm×186mm (額縁サイズ385mm×278mm)
遠くの街へ思いを馳せ、空や道、緑の情景が切り替わる様をコラージュで表現しています。
深い蒼を基調とした透明感のある色彩とマットな質感が、余韻のある静かな奥行きを感じさせます。
モダンなリビングや書斎に飾ることで、空間に澄んだリズムと静かな時間をもたらす作品です。

上野 瑠美『BEYOND THE SKY 2025.5 07』
【技法/画材】: コラージュ、アクリルガッシュ、色鉛筆など
【サイズ】: 260mm×186mm (額縁サイズ385mm×278mm)
街の情景が幾重にも重なる矩形によって描かれ、旅の断片を優しく示唆しています。
柔らかな色調と鮮やかな差し色が響き合い、眺めるほどに情景が切り替わるような奥行きを感じさせます。
壁に飾ることで空間に穏やかな空気が生まれ、リビングや寝室にも自然に寄り添います。

上野 瑠美について
具象と抽象を歩み寄らせ、模様のような絵を描いています。感情を色や形の重なりに落とし込み、 画面の中に流れる空気のゆらめきを作っています。
まとめ
コラージュの魅力は、制作者の内面やセンスによって、まったく異なる質感の物質が画面の中で調和するところにあります。
単純なようでいて、切り抜き方や構成によって作品の印象が変わる、奥深い表現技法です。
この記事でコラージュアートに興味を持ったら、ぜひ個展に足を運んだり、WASABIで自分だけの一枚を探してみてください。
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