大阪中之島美術館「展覧会 岡本太郎」レポート。破天荒で王道な生き様に触れる。
投稿日:(金)
目次
こんにちは!
関西在住アーティストのにしはるです。今回は、大阪の中之島美術館で開催中の「展覧会 岡本太郎」についてレポートします。
魅力たっぷりの「展覧会 岡本太郎」の様子を知りたい方、今後巡回予定の東京や愛知での展示の予習をしたい方はぜひご覧ください。
初めて訪れる大阪中之島美術館
黒くて巨大な建物にも思える大阪中之島美術館。
2022年の2月2日に開館したこの新しい美術館は、大阪駅から徒歩20分ほどのオフィスビルが立ち並ぶ場所にある。
周辺には川が流れ、隣には国立国際美術館があり、この場所一体が文化的な雰囲気が漂う。特に大阪中之島美術館はブラックボックスのような特徴的な外観でよく目立つ。
隣の国立国際美術館にはよく展示を見に行くため、そこまで人がいないだろうと考えていた。しかし、私の予想は外れ、お年寄りやファミリー、カップルなど、様々な人達が中に入っていく。
さっそく予約した時間に展示会場へと向かう。会場は4階で、そこに向かうにはエスカレーターを使うしかない。そのエスカレーターには、10人以上の人が既に並んでおり、この展示の混雑具合を覚悟した。
フロントランナーであり続けた、その秘訣
この展示は、両親と一緒にパリで過ごした10年間で制作された作品から晩年の作品までが展示される回顧展だ。その膨大な作品たちを、「1. 岡本太郎誕生ーパリ時代」「2. 創造の孤独ー日本の文化を挑発する」「3. 人間の根源ー呪力の魅惑」「4. 大衆の中の芸術」「5. ふたつの太陽ー《太陽の塔》と《明日の神話》」「6. 黒い眼の深淵ーつき抜けた孤独」の全6章で構成している。
展示会場に入ると、作品が印刷されているモノクロの壁が目に入る。これは、岡本がパリに滞在していた時に制作したものだが、現物は戦争で消失してしまった。そこで、1937年にパリで出版された画集『OKAMOTO』の図版を元に実寸大で印刷し、展示される形となったのだ。
19歳からの10年間という多感な時期に、岡本は西洋の最新の前衛運動や思想に触れたことが今日に至るまでの岡本太郎の基礎を作ったのかもしれない。さらに、岡本はこの時期にピカソの作品を見て、強く影響を受けた。その為、第1章の作品はどこかキュビズムらしい表現を感じる時もあった。
周りを巻き込み、拡大していく
展示会場では、絵画作品だけでなく、彫刻や過去のグッズ、梵鐘までも展示されている。
私も当初は表現の振れ幅に驚いていたが、よく作品を観察していくと、どれも「今ある現象を疑い、挑戦する」ような姿勢が共通のコンセプトとして組み込まれているように感じた。
「座ることを拒否する椅子」
「座ることを拒否する椅子」もその1つ。本来、人が座るために椅子という家具は開発されているのだが、座面に敢えて絵や装飾を施し、座りにくいモノにしている。それによって、「なぜ人は座るのか?」という行為そのものを鑑賞者に対して問題提起するような作品となっている。
「梵鐘・歓喜」
名古屋のお寺から寺の梵鐘を作ってほしいと依頼を受けた岡本。当初は岡本自身も戸惑ったようだが、鳴ることに縛られず「強烈なシロウト」として作品を制作した。その結果、造形的な冒険が優先され、岡本独自の梵鐘が出来上がったのだ。
戦後、岡本は創作を行う傍らで、 花田清輝らとともに「夜の会」を結成した。そこでは画家だけでなく、小説家や作家も加わったことで広く前衛芸術について論じることが出来るような場であった。
そんな岡本の絵画や技術だけに囚われず、広く芸術を考える姿勢があったからこそ、彫刻や椅子、梵鐘が生まれたのだろう。
太陽の塔などを制作する中で、大衆に向けて制作する機会も多かったと思う。しかし、その中でも自らの挑戦する姿勢を貫いてきたことが、この展示では伺える。
岡本太郎に見る戦う姿勢
「太陽の塔」や「明日への神話」についての展示を抜けた後は、いよいよ岡本が晩年に制作した作品達が展示される「6. 黒い眼の深淵ーつき抜けた孤独」に入る。
ここでは23点もの作品が展示されている。そのほとんどに、黒い眼のような特徴的なモチーフが描かれている。中には、過去に描いた作品から上書きをする形で、作品が新しく描かれたものもある。
鋭く見つめる黒い目たちに、岡本自身は晩年になっても自らへのプレッシャーを自分でかけていたのかもしれない。そう感じると、彼の人生は最初から最後まで挑戦によって繋がってきたようにも思えた。
貪欲に、愚直に挑み続けよ
今まで見たことがある岡本太郎の作品と言えば「明日への神話」ぐらいだった。その為、パリ時代から晩年までの作品を見ることが出来たのは、とても良い機会であった。
私は、様々な展示をアーティストという立場で作品を見てしまう傾向があるのだが、岡本太郎の展示を通じて感じたことは、彼は破天荒に見えるが、かなり王道の戦い方を行った人であることだ。
なぜなら、10年間パリで最新の西洋美術や芸術運動に触れることが出来たからこそ、より芸術の本質的な問題を問う姿勢が生まれたように感じる点や自らの「絵画」というジャンルから飛び出して、作家などの他の芸術家とも交流を持った点、何事にも挑戦していった姿が、結果として大衆からも広く認知される作家となったように思えたからだ。
この気付きを得たことが、個人的には大きな収穫であった。
■「展覧会 岡本太郎」
会期:2022年7月23日~10月4日
会場:大阪中之島美術館
住所:大阪府大阪市北区中之島4-3-1
時間: 10:00 〜 17:00
入場料:一般 1800円、大学生・高校生 1400円、中学生以下 無料
公式ホームページ:http://taro2022.jp/
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