クリストとジャンヌ=クロードとは?日本で見れる「包まれた凱旋門」から見えてきた作品の意味
投稿日:(木)
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大きな建物を布に包むことで有名なクリスト&ジャンヌ=クロード。彼らの大規模なアートプロジェクトはいつも作品を目の当たりにした人に驚きと感動を与えています。
しかし、彼らはなぜここまで大きなプロジェクトを行うのでしょうか?
今回は2022年6月13日から 2023年2月12日まで21_21 DESIGN SIGHTで開催されている「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」のレポートと一緒に彼らの作品作りの秘訣に迫ります。
クリスト&ジャンヌ=クロードとは?
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クリスト&ジャンヌ=クロードは公共空間で大規模なプロジェクトを行うアーティストだ。さらに、それらと並行して、自らのコラージュ作品などの販売も行っている。
アートの文脈では、環境、SEA(ソーシャルエンゲージドアート)、インディペンデントな活動形態といった、多岐にわたった切り口で注目されている点が特徴的だ。
クリストはブルガリア、ジャンヌ=クロードはモロッコで生まれで、二人は58年にパリで出会う。そこから彼らは二人での活動を開始し、活動初期にはヨーロッパ各地で意欲的に作品制作に取り組んだ。
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「鉄のカーテン―ドラム缶の壁」(1962)
さらに、1964年には作品制作の活動拠点をアメリカ・ニューヨークに移し、道路から建物と言った大規模なプロジェクトに挑戦し始める。
二人の活動において特筆するべき点は、建物や空間を包むことで発生する巨額の費用をクリスト自身の作品販売でまかなっている点だ。つまり、美術館や政府や企業などからの援助を一切受けていないのだ。
また、空間や建物を一時的に布で包むことで、景観を変えてしまうため、プロジェクトの進行の為には地元の市民団体との交渉や話し合いも必要になる。そのような話し合いの場においても二人は出席し、実際に地元の人と話し合うのだ。
このようにプロジェクトに関わる多くのことをクリストとジャンヌ=クロードや周囲のスタッフによって進行させていることが、現代においては珍しいインディペンデントな活動と言える。
なぜ布で包むのか?
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クリストとジャンヌ=クロードが生み出す作品においては多くの疑問が生まれる。
なぜ自然や景観を変えるような行為を行うのか?
わざわざ公共の空間で作品を発表するのはなぜか?
なぜ、布で包むのか?
そして、そもそもこれはアートなのか?
しかし、このような疑問が生まれる事自体がアートなのだ。なぜなら、「包む」行為そのものが作品だからだ。
公共の建物を包むとなると、構想・準備の段階から設置まで10年以上の時間が必要になる。その多くはプロジェクトのための資金調達や設置する予定の行政や住民との交渉だ。
交渉には様々な苦難が発生する。しかし、それらは普段見えてこなかったモノゴトに隠れた歴史や文脈を浮き彫りにする逆説的な表現手法とも言え、観客だけでなく当事者も驚きや発見が生まれる体験となるのだ。
しかし、ほとんどの場合、設置した作品は数週間や数ヶ月で撤去される。一見、どこを切り取っても無駄なように思える二人のプロジェクトの過程は何故アートとして認識されているのだろうか?
それは徹底的に無駄な行為によって、普段は気が付かない隠れた問題や歴史、文脈などを発掘するからではないだろうか?
大規模でありながら示唆的なアートプロジェクトを行ってきたクリスト&ジャンヌ=クロード。次の項目では、二人が構想から60年以上の月日を掛けて実現した凱旋門のプロジェクトを取り上げた展示のレポートを行う。
「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」に潜入!
ここからは、21_21 DESIGN SIGHTにおいて2022年6月13日から 2023年2月12日まで開催されている「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」のレポートを行う。
「包まれた凱旋門」(L'Arc de Triomphe, Wrapped)とは、パリにある凱旋門が16日間にわたり、銀色のコーティングが施された青い布と3000mもの赤いロープで包まれたプロジェクトの結果だ。この展示では「包まれた凱旋門」の制作過程と二人の人生を辿るような構成で作品が展示されている。
展示には多くの記録画像や映像を使用していることもあり、全ての映像作品を最初から最後まで見ると2時間ほど掛かると受付のスタッフに言われた。
また、観客が参加できる展示が特徴的な21_21 DESIGN SIGHTの企画展らしく、子どもが楽しんで作品を見れるような工夫もされていた。この冊子の中にはクイズ形式のような形で「完成まで掛かった時間はどれくらい?」や「掛かったお金はどれぐらい?」といった質問が投げかけられている。
クリストとジャンヌ=クロードの道のりを辿る
展示会場へと足を進めると、二人の歩んだ人生がパネル上で知ることが出来る。
特にニューヨークに拠点を移してからの資料が豊富で、クリスト自身が自らのコラージュ作品によってプロジェクトの資金を集めていた様子がよく分かる。
とりわけ資金を集めるという点では、1940年代以降アートの中心地となりつつあったアメリカに移住したことは彼らにとって好都合だったのだろう。
会場にいくつも展示されている凱旋門の絵。それらは、クリストがプロジェクトの構想段階で描くものだが、どれもクオリティが高いものだった。
上記ように、絵の近くに寄ると縦幅などの大きさが書かれており、構想段階の絵でさえも精密に描かれていることが分かる。
また、少し奥の展示エリアでは「包まれた凱旋門」以外のプロジェクトが紹介されていた。
凱旋門を包むまでの過程
地下一階の展示室を進んでいくと、「包まれた凱旋門」を実現するまでの詳細な過程が映像や写真によって展示されている。
凱旋門の1/50模型や、スタッフ総出で青い布を包む様子、使用するロープの耐久テストの様子などが展示されており、いかに多くの人が関わったプロジェクトなのか実感することが出来る。
多くの準備の末に、やっと凱旋門への搬入が行われる時の様子。この映像で流れるロープの技術者が一斉に凱旋門からロープを使って降りる様子は圧巻だ。
観客だけでなく、関わった人も経験するもの
設営が完了した後の凱旋門の様子を写した映像。凱旋門に多くの人が集まっている様子に、現場の興奮具合が伝わる。さらに、町全体と一緒に撮影した凱旋門の様子も、普段とは違う凱旋門の様子にクリスト達が成し遂げたことの重大性を感じずにはいられない。
その後、展示は「包まれた凱旋門」に関わったスタッフの人達のインタビューや実際に使用した資料の展示となる。そのインタビュー映像でも驚くほどの労力と時間が掛かったことが分かると同時に、無駄とも思える行為こそがクリストの考える「アート」だということを実感させられた。
そんなインタビュー映像の後に見た写真だからこそ、写真の中でガッツポーズをきめる人達の達成感やプロジェクトにかける思いが何となく自分にもリンクするような感覚になる。
日常の中では考えられないほどの時間、人員、費用を掛けたこのプロジェクトに私は感服せざる終えなかった。しかし、驚いてはならないのが、同様のプロジェクトを二人はいくつも成し遂げた事実である。
そう思い返すと「この人たちは、本当にとんでもないことを成し遂げたんだ」と感じた。
凱旋門を見ることが出来なかった二人を想って
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最後の展示室は少し薄暗く、ポツンと二人の写真が飾ってあった。そして、私は実現した「包まれた凱旋門」をクリストとジャンヌ=クロードは見ることが出来なかったことを思い出した。
2009年にジャンヌ=クロード、2020年にクリストは逝去しており、本来ならその時点でプロジェクトが頓挫してもおかしくない。しかし、こうしてプロジェクトが実現したのは、関わっていたスタッフ達の熱意によるものだと言えるだろう。
彼らのような偉大な作品を見にして、私達はこれからどんな世界を見れるのだろう?二人のアーティストによる歴史的な出来事は、時を越えて未来を作る布石になるに違いない。
【展覧会概要】会期 |
2022年6月13日(月)- 2023年2月12日(日) |
会場 |
21_21 DESIGN SIGHT |
休館日 |
火曜日、年末年始(12月27日 - 1月3日) |
開館時間 | 10:00 - 19:00 (入場は18:30まで) |
入場料 | 一般1,200円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料 |
アクセス | 都営大江戸線「六本木」駅、東京メトロ日比谷線「六本木」駅、 千代田線「乃木坂」駅より徒歩5分 |
展覧会HP | https://www.2121designsight.jp/program/C_JC/ |
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