国際芸術祭「あいち2022」常滑エリアの展示レポート 。焼き物の街で境界線を越える。

投稿日:(月)

国際芸術祭「あいち2022」常滑エリアの展示レポート 。焼き物の街で境界線を越える。

目次

2022.7.29.UPDATE

Day2

本当は今日1日かけて愛知文化芸術センターの展示をゆっくり楽しむつもりだった。しかし、今日は月曜日。お目当ての会場は休館日であった為、急遽予定を変更して常滑地区の展示を見に行くことにした。

愛知文化芸術センターのレポートはこちら

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国際芸術祭「あいち2022」展示レポート 。生きていく中で発生するカオスを楽しんで。

7月30日から開催が始まった国際芸術祭「あいち2022」の展示およびパフォーマンスのレポート。愛知文化芸術センターで行われた現代美術展、トラジャル・ハレルのパフォーマンスのレポートです。

常滑市に行くのは今回が初めてだ。早めに泊まっていたホテルを出て、約1時間ほど電車に乗って常滑に向かう。出発前に食べた朝ごはんは定番のコメダ珈琲のモーニングセット。

セントレア(中部国際空港)へと向かう電車の中でキャリーを持った人達を横目に常滑駅で降りる。むわっとした暑さがすごかった。駅の外を出て早速、展示会場が集まるエリアへと向かう。強い日差しと空気がとにかく暑い。日傘も良いんだけど、帽子を持って来れば良かったなぁ、と少し後悔する。

普段はGoogleマップを利用して、知らない街を回るのだが、前日に会場で頂いた公式ガイドブックの方がGoogleマップよりも精度が良いような気がした為、ガイドブックを片手に歩き回った。


(とこなめ招き猫通り)


展示エリアに向かう際に出くわした「とこなめ招き猫通り」。様々な御利益を持った39体の招き猫がズラリと並んでいる。

焼き物の街として知られているこの場所は、常滑焼が全国的に有名だそうで、特に急須や招き猫の生産は日本一を誇る。そんな街だからこそ、至る所に招き猫や焼き物を使用した装飾がある。


(廻船問屋 瀧田家)


(細い道)

名古屋市街とは違う風情ある町並みを歩きながら、最初に訪れたのは旧丸利陶管だ。ここでは5名のアーティストの展示が行われている。私はてっきり、同じ空間に5組のアーティストの作品が並んでいるのか、と考えていたが、それとは全く異なる風景であった。


グレンダ・レオン


早速、会場に到着し、建物の2階に上がると、星座を模したような作品が壁にあった。会場スタッフの人からは「これ、触っても良いんですよ」と言われ、触ってみる。バイーンと音がする。ピンと張られたギター弦は色んな長さがあり、それぞれ音が異なる。色々触っていくと、何だか音楽が聞こえてきそうな気持ちになった。



(グレンダ・レオン「星に耳をかたむけるⅢ」(2022))


(同上)


すぐ横には月の満ち欠けを表現した別作品もあった。




 

こちらも先ほどと同じ、グレンダ・レオンの作品だ。壁に付けられている月は皆、太鼓として音を出すことが出来る。勿論、大きさが異なるため、出てくる音も違う。

ポコポコと鳴らしていると、ついさっき作品を触って音を出して良いと言ってくれたスタッフの人が話しかけてきた。最初は「音が違いますね~」なんて世間話らしく話していた。ふと星座の作品も月の作品も原始的な楽器で構成されていることに気が付き、それをつい喋ってしまった。少し年配のスタッフだったが「なるほど~」と少し発見があったかのような素振りを見せる。(本当にそういう素振りだけだったかもしれない)

その時に昨日、会場のボランティアスタッフは対話型鑑賞の研修を受けたってどこかに書いてあったことを思い出した。だからこれは積極的に会話してもいいのだ、と思い、しばらくグレンダ・レオンの作品についてお話した。


「THE JOURNEY WITH A GUN AND NO MONEY 北海道無銭旅行508km」服部文祥+石川竜一




スタッフさんとの話に夢中になってすっかり時間を忘れてしまった。ああ、まだ2作品しか見てないのに、この調子なら日が暮れてしまいそうと思いながら、次の作品へと向かう。入り口には立派な毛皮。それに「THE JOURNEY WITH A GUN AND NO MONEY 北海道無銭旅行508km」と書かれている。

すぐ横に「灼熱のためドア半開き」と書かれていたり、奥のキャプションには重要な一文に丁寧にピンクマーカーが引かれていたりして、既に部屋の中に入る前から面白そうな匂いがプンプンする。



部屋の中には北海道での登山ルートを記した地図や登山リュック、タヌキなどの毛皮が展示されていた。面白い!と心の中でウキウキしながら部屋の中をじっくり見渡していると、アーティストである服部から「チャイ入れたんで、どうぞ」と言われた。

私も来た人にお茶を入れる作品はよくやっていたのだが、他の人が作品に同様のことを取り入れている様子を見ると面白い。こうして、服部ともう一人の男性と私でチャイを飲む時間が生まれた。私は空間や雰囲気、2人の会話を楽しむことにいっぱいいっぱいで、ハハハって笑う人でしかなかった。とは言え、登山の中で感じられた身体の変化や食事の話を聞くのは、とても新鮮で興味深かった。


シアスター・ゲイツ

家々が重なる中を作品を求めて歩く。まるで、作品鑑賞と言う名の1つのゲームに入れられたような気分となる中で、シアスター・ゲイツの会場にたどり着く。

扉を開けると、床が一段上がった先に、DJブースのような場所があり、そこで音楽を鳴らしている。その先の2階にも作品があるらしいが、定員が3名までとのことで少し待った。待っている間に、先に会場を訪れた人が2階へと上がっていく。その時に、自分たちがいた場所から一段上がった床に上がり、奥へと消えていく。その様子が、舞台に上がって観客から参加者になったことを宣言しているようにも見えた。


(シアスター・ゲイツ「ザ・リスニング・ハウス」(2022))


黒田大スケ

窯がそのままの状態で残っている旧青木製陶所。ここでは、常滑美術研究所で教鞭をとった3人の彫刻家をクローズアップする。それぞれを自演していく中で、「彫刻」という概念に触れていく内容はスリリングであった。


さらに、3人それぞれが人間の形ではなく、動物に化けて登場していたことで、それぞれが、ゆかりのある常滑の地に気恥ずかしくも帰省しているようにも思えた。会場には個人ごとに撮影された10分ほどの映像がある。そこでは常滑美術研究所での話やその後の自らの人生について語っている。


常滑という地が昔どんな場所だったのか、私は詳しく知らない。しかし、想像するに、あまり大きくはない職人の街だったのだろう。正直、田舎の農村集落と比較するのは良くない話かもしれないが、昔は噂や評判がその人にずっと付いて回るような土地だったのかもしれない。


そんな小さな街で、この作品は100年弱も前に実際に昔住んでいた個人を取り上げた。それが私はとても勇気があることのように思えたのだ。もう100年弱も前の話なんて、良いじゃないかと考えるのが普通かもしれない。しかし、ずっと昔から常滑の土地に住んでいる人が見たら「ああ、あの人はねぇ…」と喋りだしそうなものである。つまり、一歩間違えれば地元の人から見ればタブーのようなものを扱うことになるのだ。アートの側面として敢えてタブーとされているものを扱う表現もある。勿論、それには価値があると思うし、黒田大スケの作品も面白いと思う。しかし、街中での展示だからこそ、その塩梅を上手に付ける必要性が出てくるのだ。そんな状況の中で、こうしてコミカルに特定の人物を作品として昇華させたことには拍手を送りたい。


尾花賢一 イチジクの小屋



(尾花賢一「イチジクの小屋」(2022))


(同上)

こちらも個人のリサーチから新しい作品が立ち上がってきたものだ。大量に作られたまま残った急須や工具たち。それらに関連するような漫画がストーリー上に会場に散りばめられている。


その時、グレンダ・レオンの作品の前で一緒に尾は話をしたスタッフさんと会う。休憩中だったのだろうか?「お庭にも作品がありましたよ~」と教えてもらった。



日常に入り込み、境界をなくす


常滑エリアに展示されていた作品はどれも空間を上手く使用した作品ばかりで、とても新鮮だった。前日に愛知文化芸術センターで展示を見ていたこともあり、いわゆるホワイトキューブとは異なる空気感に刺激を受けたのだろう。




所々に散見される焼き物は、時には外国の人が作ったものもあった。恐らく、焼き物の街として普段から滞在制作や観光客を受け入れているのだろう。

しかし、あまりにも風情があるものだから、気を抜くとこちらも開放的な気分になってしまう。ついつい、人が住まう街であることを忘れて、あれこれ見てしまいたい気分になるのだ。そんな気分を、地元住民の人とすれ違う度に、正していた。そんな私の気分を事務局側は予想していたのだろうか?

事務局が用意したであろう看板には「個人の家をのぞいたり、敷地に入らない」と書かれていた。

当たり前じゃないか、と感じる人がほとんどだろう。しかし、アートの恐ろしい所は、普段当たり前のように作られている境界を、さも自然に消し去ることが出来てしまう所だ。例えば、美術館に置いてあるモノは作品ではなかったとしても、作品のように見えてしまう。それと同じように、ここでは街全体がアートと化してしまっているのだ。

言葉だけ聞いたらそれは良いように聞こえる。しかし、そこで日常を送る人にとっては別問題だ。特に芸術祭のようなイベントを受け入れる経験がない場所では、勝手に色んな人が来て、解放感のままに街を歩き、気付けば自分の敷地内に入られたら気持ち悪いだろう。

昔、寺山修司が東京の阿佐ヶ谷で市街劇「ノック」を上演した。その時に、観客は作品として街中の様子を鑑賞している為、地元住民の苦情を受けて駆け付けた本物の警察官に対して「良い演技だ」と言ったそうだ。

グルグルと街と芸術祭について考えていたが、最終的に行きつく結論としては、こうして双方が良い形で作品を展示したり上演するために、様々な努力があったという点だ。一時期、集落に住んで作品創作を行っていたからこそ、大変さが身に染みて感じる。しかし、私たちは想像以上にアートの力を過小評価していたのかもしれない。

アートには、こんなにも境界線を打ち消す力があるなんて…!


今回のあいち2022は予定外のスケジューリングとなったが、とても面白い体験が出来た。他の展示エリアでもある有松地区や一宮市にも機会を見付けて行ってみたい。

 

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