象徴主義とは|絵画・音楽・文学の特徴や思想をわかりやすく解説

投稿日:(火)

象徴主義とは|絵画・音楽・文学の特徴や思想をわかりやすく解説

目次

19世紀後半、ヨーロッパを席巻した「象徴主義」。

目に見える現実をそのまま描くのではなく、人間の内面や夢、神秘的な世界を表現しようとしたこの運動は、文学を起源にさまざまな芸術分野へと広がっていきました。

今回は、象徴主義が誕生した背景や特徴、代表的なアーティストたちの魅力をご紹介します。

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象徴主義の概要

象徴主義は、19世紀末のヨーロッパで起こった芸術運動です。
それまでの美術界では、現実をありのままに捉える「写実派」や、光の移ろいを描く「印象派」が主流でした。

しかし、象徴主義の画家たちは、そうした「外側の世界」の描写だけでは捉えきれない、人間の内面や夢、神秘的な精神世界を表現しようと試みました。

どのような背景があったのか、詳しく見ていきましょう。

定義と起源

象徴主義宣言
ジャン・モレアス『象徴主義宣言』フィガロ紙

象徴主義は、1880年代にフランスを中心として起こり、その後ヨーロッパ全土へと広がっていきました。その名の通り、目に見える形を借りて「目に見えない何か(感情、思想、夢、神秘)」を「象徴(シンボル)」として表現することを定義としています。

発端は詩人のジャン・モレアスが新聞に掲載した「象徴主義宣言」という文章でした。

その核心は、「目に見える現象は、真実の世界を覆い隠している表皮に過ぎない」という考え方にあります。モレアスは、芸術の目的は現実を客観的に描写することではなく、事物の奥に潜む「イデア(純粋な理念)」を感覚的な形を通じて暗示することだと説きました。

特定の技法に縛られるのではなく、「目に見えない精神世界を描き出す」というムーブメントは、やがて絵画、音楽、演劇などの分野にも波及していきました。

時代背景

産業革命
出典 : SJX

象徴主義が生まれた19世紀末は、産業革命によって社会が劇的な変化を遂げた時代でした。科学技術の発展や都市化が進み、人々の生活は便利になった一方で、合理主義や物質主義が行き過ぎ、精神的な虚無感や不安を抱える人々が増えていきました。

こうした科学万能主義への疲れから、人々は再び「神秘的なもの」や「内面的な世界」に目を向けるようになります。また、当時は心理学の先駆けとなる研究も始まっており、人間の潜在意識といった領域への関心が高まっていました。

このような不安定で神秘的な時代の空気が、象徴主義という芸術を育む土壌となったのです。

象徴主義の特徴

オディロン・ルドン 『ヴィオレット・ヘイマンの肖像』 クリーブランド美術館
オディロン・ルドン 『ヴィオレット・ヘイマンの肖像』 クリーブランド美術館

象徴主義の絵画は、不思議な雰囲気を纏った作品が多く見られます。
具体的にはどのような特徴があるのでしょうか。

テーマ

象徴主義の画家たちが好んだテーマは、人間の内面にある「不安」「死」「愛」「官能」「夢」などです。これらを直接的に描くのではなく、ギリシャ神話や聖書のエピソード、あるいは中世の寓話を借りて間接的に描き出しました。

例えば、聖書に登場するサロメという女性は、多くの象徴主義の画家によって描かれました。しかし、それは単なる宗教画としてではなく、男性を破滅させる「宿命の女(ファム・ファタール)」という、当時の男性たちが抱いていた女性への恐怖や憧れの象徴として表現されたのです。

評価、影響

象徴主義は、20世紀美術に多大な影響を与えました。目に見える世界の再現ではなく、画家の主観的な内面を表現するという姿勢は、芸術運動「シュルレアリスム(超現実主義)」の先駆けでした。 

また、色や形そのものに感情を託す試みは、「表現主義」や形を持たない「抽象絵画」へと繋がっていきました。現在では、近代美術への扉を開いた重要な転換点として高く評価されています。

表現主義との違い

象徴主義に近似したものに「表現主義」があります。どちらも人間の内面世界を描く点では共通していますが、そのアプローチには明確な違いがあります。

象徴主義が象徴的な記号やモチーフ(神話など)を使って精神性を暗示するのに対し、表現主義は画家自身の感情を、形や色彩を使って直接的に爆発させました

自己と向き合う静かな対話を描く象徴主義と、魂の叫びそのものを画面にぶつけた表現主義。画家たちはそれぞれの手法で現実世界と対峙し、「目に見えないもの」を芸術に昇華しました。

国境を越えて広がる象徴主義

象徴主義は、特定の国やグループに限定された運動ではなく、19世紀末のヨーロッパ全土で共鳴し合った思想でした。そのため、各地で結成された芸術運動の中にも、象徴主義の精神を深く共有しているものが多く存在します。

それぞれどのような特徴があったのか、詳しく見ていきましょう。

ラファエル前派(イギリス)

ジョン・エヴァレット・ミレイ 『オフィーリア』 テート・ブリテン
ジョン・エヴァレット・ミレイ 『オフィーリア』 テート・ブリテン

19世紀半ばのイギリスで、若い画家たちが結成した「ラファエル前派」は、フランスの象徴主義に先駆けてその精神性を体現したグループです。彼らはラファエロ以降のアカデミックな伝統を否定し、中世や初期ルネサンスの表現方法に立ち返ることを目指しました。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティやジョン・エヴァレット・ミレイといった画家たちは、文学、神話、アーサー王伝説などを題材に、緻密な写実を使いながらも、その奥に深い感情や道徳的な教訓を「象徴」として描き込みました。

彼らの物語性と装飾性は、後の大陸の象徴主義者たちにインスピレーションを与えた、象徴主義の先駆的な存在です。

ウィーン分離派(オーストリア)

グスタフ・クリムト 『接吻』 ベルヴェデーレ宮殿オーストリア絵画館
グスタフ・クリムト 『接吻』 ベルヴェデーレ宮殿オーストリア絵画館

1897年にグスタフ・クリムトを中心に結成された「ウィーン分離派」もまた、象徴主義の文脈で語られる重要な運動です。彼らは古いアカデミズムから「分離」し、生活と芸術を融合させた新しい表現を模索しました。

代表的な画家であるクリムトは金箔を多用した装飾的なスタイルで知られ、描く内容は「愛」「死」「エロス」「救済」といった人間の普遍的で内面的なテーマに基づいています。

彼らの活動は、同時期に流行したアール・ヌーヴォーのデザイン性と、象徴主義の持つ内省的な精神性を融合させた、象徴主義の到達点の一つといえます。

ナビ派(フランス)

ポール・セリュジエ 『タリスマン(護符)』
ポール・セリュジエ 『タリスマン』 オルセー美術館

1880年代末のパリで、ポール・ゴーギャンの思想に影響を受けた若者たちが結成したグループが「ナビ派(預言者派)」です。

彼らが目指したのは、ルネサンス以来の伝統である「奥行き」や「写実」を捨て、画面を色彩と線の調和による「装飾」として再構築することでした。

モーリス・ドニやピエール・ボナールらは、家庭的な風景や宗教的なテーマを装飾的な平面構成で描き、目に見えない神聖さや平穏を暗示しました。

この「概念を形にする」という姿勢こそが、象徴主義の核となるものです。

ベルギー象徴主義(ベルギー)

ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク 『ベニスにて』 ベルギー王立美術館
ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク 『ベニスにて』 ベルギー王立美術館

ベルギーは、フランス以外で最も象徴主義が熱狂的に展開された場所です。「二十人展」などのグループを中心に、フェルナン・クノップフやジェームズ・アンソールらが活躍しました。

彼らの作品は、フランスの象徴主義よりもさらに憂鬱で、どこか死の気配や静かな恐怖が漂う独特の空気感を持っています。

沈黙や孤独をテーマにした彼らの作品は、ルネ・マグリットやポール・デルヴォーなどにも影響を与え、後のシュルレアリスムへと繋がる「内面世界への潜入」をより深めていきました。

象徴主義の代表的な画家

ここでは、象徴主義を代表する3人の巨匠と彼らの作品を紹介します。

ギュスターヴ・モロー

ギュスターヴ・モロー『自画像』ギュスターヴ・モロー美術館
ギュスターヴ・モロー『自画像』ギュスターヴ・モロー美術館

ギュスターヴ・モローは、フランス象徴主義の父とも呼ばれる画家です。

彼は国立美術学校の教授として、後にフォーヴィスムを牽引するマティスやルオーを育てた教育者でもありました。

モローの作品は、宝石を散りばめたような細密な装飾と、異教的な神秘性が漂う独特の世界観が特徴です。

『出現』

ギュスターヴ・モロー 『出現』 オルセー美術館
ギュスターヴ・モロー 『出現』 オルセー美術館

モローの最も有名な作品の一つである『出現』は、新約聖書に登場する王女サロメのエピソードを題材にしています。

聖書において、サロメは母親の指示でヨハネの首を求めたに過ぎない存在でした。しかし、1891年にオスカー・ワイルドが戯曲化したことで、「ヨハネに恋焦がれ、拒絶された末に生首に口づけする」という狂気的な愛を持つ悪女のイメージが定着しました。

モローがこの作品を描いたのはワイルドの戯曲より前ですが、すでに独自の解釈が込められています。
宙に浮かび、神々しい光を放つ洗礼者ヨハネの生首と、それを指差すサロメ。画面を彩る緻密な建築装飾とドラマチックな構図が、サロメの美しさを際立たせています。

ここで描かれている首は物理的な遺体ではなく、サロメの良心や欲望が生み出した「内面的な幻影」です。単なる物語の挿絵を超え、人間の欲望と恐怖を見事に可視化した一枚です。

オディロン・ルドン

オディロン・ルドン
出典 : ART IN CONTEXT

オディロン・ルドンは、象徴主義の中でも特に「夢」や「潜在意識」を追求したフランスの画家です。

キャリアの前半は「黒」にこだわり、不気味で幻想的なリトグラフや木炭画を描いていましたが、後半生では一転して、色鮮やかで優しいパステル画を手がけるようになりました。

彼の描く世界は、優しさと不安を湛えた不思議な静けさに満ちています。

『キュクプロス』

オディロン・ルドン 『キュクプロス』 クレラー・ミュラー美術館
オディロン・ルドン 『キュクロプス』 クレラー・ミュラー美術館

ルドンの代表作『キュクロプス』は、ギリシア神話に登場する一つ目の巨人ポリュペーモスの物語を題材にしています。

神話では粗暴で恐ろしい怪物として登場する巨人ですが、ルドンが描いたのは、愛する海の精ガラテイアを遠くからそっと見つめる姿です。

画面の下方には、花々に囲まれて眠るガラテイアが小さく描かれ、その背後の山から一つ目の巨人が彼女を優しく見守るように覗き込んでいます。

ルドンにとって、この「目」は自らの内なる世界を見つめるものの象徴だったのでしょう。自身の孤独な内面と向き合い続けたルドン特有の、深い精神性と独自の解釈が光る傑作です。

エドヴァルド・ムンク

エドヴァルド・ムンク
エドヴァルド・ムンク

ノルウェー出身のエドヴァルド・ムンクは、北欧が生んだ象徴主義から表現主義への橋渡し役となった画家です。

彼は幼少期に母と姉を病で亡くし、自身も常に死の影と病に怯えて過ごします。その過酷な体験から、人間の普遍的な苦悩をテーマに作品を描き続けました。

「絶望」、「憂鬱」、「不安」、「嫉妬」、そして「叫び」といったタイトルの絵画群は、ムンクの精神状態を如実に表しており、その作風は、その時彼を襲った感情によって大きく変化しました。

叫び

エドヴァルド・ムンク 『叫び』 オスロ国立美術館
エドヴァルド・ムンク 『叫び』 オスロ国立美術館

世界で最も有名な絵画の一つである『叫び』。多くの人が「中央の人物が叫んでいる」と誤解していますが、実際には自然を貫く巨大な叫びに耐えかねて、耳を塞いでいる姿を描いています

ムンクは『叫び』という全く同じ構図の作品を、素材や技法を変えて合計5点(下絵等を含めるとそれ以上)制作しています。

オスロ国立美術館蔵の『叫び』は、うねるような背景の曲線と鮮烈なオレンジ色の空で、パニックに陥った人間の心理状態を視覚化したものです。ムンクは自分自身の内面にある言葉にできない不安を、絵画を通して象徴的に表現しました。

絵画以外の象徴主義

シャルル・ピエール・ボードレール『悪の華』
シャルル・ピエール・ボードレール『悪の華』

象徴主義は絵画の世界に留まらず、文学や音楽といったあらゆる芸術分野に発展しました。彼らが共通して追い求めたのは、言葉の意味や規則といった理性の支配から脱却し、「暗示」や「照応(コレスポンダンス)」を通じて目に見えない真実を描き出すことでした。

文学においては、ボードレールが提唱した「色や音、香りが互いに響き合い、人間の精神状態と結びつく」という概念が起点となりました。これを受け継いだヴェルレーヌは言葉の響きを重視し、ランボーは鮮烈なイメージで未知の領域を追求しました。

この流れは音楽にも波及します。作曲家ドビュッシーは、詩人たちの言葉から得た着想を、自由な和音や曖昧な輪郭へと昇華しました。夢のような移ろいを音で描く彼の手法は、まさに象徴主義の精神を音として結晶化させたものといえます。

このように、象徴主義はジャンルを越え、目に見える世界を超越した新しい美学を打ち立てたのです。

まとめ

象徴主義は、産業革命によって合理性が支配した時代に、人間の奥底にある「魂の叫び」や「神秘への憧れ」を芸術へと昇華させた運動でした。彼らは写実的な描写ではなく、神話などの「象徴」を用いることで、目に見えない真実を表現しようとしました。

モローの描く神秘的な世界、ルドンの夢のような静寂、そしてムンクの剥き出しの不安。象徴主義の作品に触れることで、現代を生きる私たちもまた、言葉にならないような感情を再発見できるかもしれません。

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