パリを魅了した日本人画家、藤田嗣治の人生の奇跡に触れる。『藤田嗣治7つの情熱』鑑賞レポート

投稿日:(月)

パリを魅了した日本人画家、藤田嗣治の人生の奇跡に触れる。『藤田嗣治7つの情熱』鑑賞レポート

目次

 

皆さんこんにちは。コンテンポラリーダンサーのしょうこです! 

今回は、SOMPO美術館にて開催中の展示『藤田嗣治 7つの情熱』の鑑賞レポートを送りします。

その特徴的な風貌と「乳白色の裸婦」像で知られる藤田嗣治による作品の数々を、彼の創作を代表する7つの切り口から辿ります。

 

 

都会のど真ん中に現れる、かっこいい美術館。

新宿駅西口から10分足らずで到着すると、曲線が印象的なエントランスには、猫や丸メガネのアイコンと共に可愛らしく飾られる「藤田嗣治 7つの情熱」のタイトルロゴが。

SOMPO美術館に訪れたのは今回が初めてだったのですが、都会のど真ん中に突然出現するかっこいい外観に、心惹かれずにはいられません。

東京の西側を主な生息地にしている私からすると、仕事の合間やちょっと時間ができた時にふらっと立ち寄れる立地がとっても魅力的。

今回は平日の17時に訪れましたが、私の他にも同じタイミングで入館される方がちらほら。

閉館までの1時間チャレンジとは、無謀な挑戦だ…と思っていましたが、以外と仲間がいてちょっと安心してしまいました。

本展示は、藤田研究の第一人者として知られているシルヴィー・ビュイッソン氏の監修のもと、「自己表現」「風景」「前衛」「東方と西方」「女性」「子ども」「天国と天使」の7つの情熱を柱に構成されています。

第1部 自己表現への情熱

最初の扉を抜けると、まず目に飛び込んでくるのは、丸メガネにちょび髭とおかっぱ頭、ドヤ顔のカメラ目線で猫を掲げる藤田の写真。

藤田といえば、代名詞の裸婦像と同時に、この独特なキュートさのある容姿が思い出されます。

彼のこのアイコニックな前髪、実は彼自身で切りそろえていたのだそう。
お金がなくて散髪に行けない時、視界を遮る伸びた前髪を、窓を開ける様に切りそろえてできたぱっつん前髪は、いつしか彼のトレードマークとなりました。

その後作品が売れる様になってからも、当時を忘れないために髪は自分で切り続けたのだとか。

自画像

第一部では様々な時代の藤田の自画像を見ることができますが、中でも目を惹いたのが、亜鉛の小さな円盤に掘られた版画作品、「ユキの瞳の中の自画像」。

髪の毛の様に細い溝で丁寧に丁寧に掘られた、片目の中に映る人影。どれだけ藤田がユキという女性を愛し、その瞳を鮮明に見つめていたのかが伺える、とても美しい作品でした。

また、藤田の作品にはよく猫が登場します。
自画像にも、猫と一緒に描かれている作品が沢山。

藤田が面相筆で描く線はとても繊細に、どこか浮世絵の雰囲気を醸しながら輪郭を描きますが、時々その線がとても薄かったり、なかったりする作品も見受けられました。

特に、1927年に描かれた自画像では、机の上に置かれた左手の輪郭がどこかぼやける様にはっきり描かれていないのが気になったのですが、その先に飾られていた作品中の猫の手のひらはかなり鮮明に描かれていたのが印象的でした。

そういえば、どの猫を見ても瞳や顔の造形、手のひらの肉球の描かれ方はとても鮮明な気が。藤田は猫が本当に可愛かったのだな、と感じて微笑ましくなりました

第2部 風景への情熱

続いて現れたのは、藤田が訪れた世界各地で描いた風景画です。

1953年に描かれたヴォジラール、パリ。

風景画


画面には人は一人も描かれていませんが、開けっ放しのドアや風の吹き込む窓、ポツンと置かれた赤い椅子からは、そこに住まう誰かの息遣いが立ち上ってくる様です。

私が展示を回っている中でも、特にこの絵の前では長い時間立ち止まっていく人が多かった印象がありました。
この誰もいない風景画から滲み出る「誰か」の息遣いや流れる時間は、不思議と映像を見ている様な感覚になってしまう、とても魅力的な作品でした。

第3部 前衛への情熱

パリに訪れた藤田は、ピカソやアンリ・ルソーの作品に触れ、衝撃を受けます。

当時、パリではフォービズムやキュビズムなどの前衛表現が全盛期の時代。
渡仏してすぐにピカソのアトリエを訪れた藤田は、ピカソの描くキュビズムの世界や、彼の所蔵していたアンリ・ルソーの自由な世界観に触れ、今まで自分が日本で受けてきた絵画教育はなんだったのか、と憤慨してしまったほどの衝撃だったと言います。

それからすぐに彼はキュビズムの分解と再構築の技法を自身の作品に取り入れ制作を始めます。

彼の作品には有名なモチーフが数々ありますが、個人的に藤田の描く前衛的な作品を目にしたのはこの時が初めてで、とても衝撃的でした。

今まで見てきた藤田作品からは想像もできないほどに力強く書き込まれた、雑然と本が積まれたデスクの作品は、文句なしにキュビズムの作品!という印象で、彼がどれだけパリの地で遭遇した新しい表現の風に感動し、手に入れようと努めていたのかが伺える力作でした。

キュビズム

第4部 東方と西方への情熱

第一次世界大戦時、日本からの留学生仲間たちが次々と帰国していく中、パリにとどまることを選んだ藤田。

その期間の制作活動で、彼は母国、日本の芸術を見直していくことになります。

面相筆を使った極細の墨の線や仏像の様なアーモンド型の目、浮世絵っぽさのある独特なポーズや仕草、金屏風の様な背景など..
様々な日本美術のエッセンスを自身の作品に取り入れていった藤田作品は、パリの地に住む日本人という、特別なアイデンティティを持ったアーティストの作品として、唯一無二の様相となっていきます。

この時期の作品は、日本画風の平面表現で描かれる西洋の女性像、というなんとも面白い作品が沢山ありました。
このテイストで描かれる、金髪でウェーブヘアの女性、着物ではなくドレスを着た女性...。

まさに、この特殊な状況で創作をしていた藤田にしか描けない景色ですよね。日本人形の様にすらっと長く、揃えて描かれる手指の描写が本当に美しかったのが印象的でした。

東西

第5部 女性への情熱

いよいよ後半に差し掛かってきました。
第5章は女性への情熱。藤田の代名詞とも言える「乳白色の裸婦」は、彼がたどり着いた唯一無二の表現でした。

藤田は生涯で5人もの妻と暮らしましたが、本展示では特に3番目と4番目の妻を描いた作品の数々を見ることができました。

藤田の3番目の妻、リュシー・パドゥーは、その肌の白さから「ユキ」というあだ名で呼ばれていました。ユキの美しい白い肌を題材とし、藤田は白い肌の表現を追求しました。
しかし彼女との交際も、前妻たちと同様長くは続かず、彼女と入れ替わる様にいつの間にか彼の隣には21歳の踊り子、マドレーヌ・ルクーが居ました。

白い肌にキリッと強気で賢そうな瞳の光るユキとは対照的に、柔らかげな巻き毛と繊細な表情、ダンサーらしいしなやかな肢体をもつマドレーヌは、藤田作品にこれまでにない柔らかさをもたらしました。

骨格のしっかりしていたユキと比べると、マドレーヌをモデルに描かれた作品では、指の節や身体に入る筋感が印象的でした。しかし、どちらの女性を題材にした作品も、藤田の描く女性像はその瞳の持つ独特の美しさに心惹かれます。

きっと藤田も、その時その時、愛した女性のその瞳を愛おしく覗いていたのではないでしょうか。

マドレーヌ

第6部 子供への情熱

藤田の「乳白色の裸婦」に次ぐ、もう1つの代表的なモチーフ、「子供」。

彼の描く子供の像は、白い肌に小さく賢そうな唇、どこか大人びた様にキリリとつり上がりった瞳...。その独特な風貌は実際のモデルのある子供像ではなく、空想上の、彼の理想とする子供たちの姿でした。

藤田は「小さな職人たち」というタイトルで、街の労働者階級の姿に扮して大人の様に振る舞う子供の姿が15cm角のボードに描かれた作品を約100枚程、コツコツ制作していました。

藤田にとってこの世で最も純粋無垢で自然に近い、まさに理想的な存在のアイコンであった子供を、その対極にある労働者階級の大人たちに重ねたこれらの作品は、そのギャップがとても奇妙な魅力を放っており、暫く目が離せなくなってしまいました。

子供

第7部 天国と天使への情熱

早い時期から、カトリック系の学校でフランス語などを習い、キリスト教や宗教画に関心を寄せていた藤田ですが、1959年にはついに洗礼を受け、名を「レオノール・藤田」とし名実共にキリスト教徒になります。

洗礼以前から、熱心にキリストの「生誕図」や「磔刑図」などを描いて来ました。
彼の描く数々の宗教画は藤田らしさを湛えつつも、キリスト教を心から信仰する情熱に溢れた作品ばかりでした。

宗教画

おわりに

異国の地フランスで、その独特の風貌と独自に切り開いた表現で世界中を魅了した鬼才、藤田嗣治。

日本とフランス、伝統と前衛の狭間にあり、唯一無二の表現を追求した彼の作品には、他にはない独特な雰囲気と魅力が詰まっています。

生前から評価され沢山のコレクターに愛された藤田作品は、その分各地に散らばっています。個人蔵の多い藤田作品ですがこれだけ一挙に彼の様々な時代の作品を見られるまたとない機会になるかと思います。

6月22日まで、SOMPO美術館で開催中です。
ぜひ足をお運びください!

ポスター
『藤田嗣治 7つの情熱』

会期:      2025年4月12日[土]-2025年6月22日[日]

開館時間:10:00-18:00(金曜日は20:00まで)

当日券:
一般 1,800円、25歳以下 1,200円、小・中・高校生 無料

前売券:
一般1,700円、大学生1,100円、小・中・高校生 無料

詳細はこちら
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2024/tsuguharu-foujita/



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