「ルノワール×セザンヌ展」鑑賞レポート|古典からモダンへ。時代を作った二人の巨匠を観る

投稿日:(火)

「ルノワール×セザンヌ展」鑑賞レポート|古典からモダンへ。時代を作った二人の巨匠を観る

目次

 皆さんこんにちは。WASABIライター兼、現役コンテンポラリーダンサーのしょうこです。

今回は、三菱一号館美術館にて開催中の『ルノワール×セザンヌ ーモダンを拓いた二人の巨匠ー』の鑑賞レポートをお届けします。

全く作風の違うルノワールとセザンヌを並べるとは、かなり興味深いタイトル。
一体どんな展示になっているのか。レポートしていきます。

 

 

「三菱一号館美術館」

東京駅からほど近く、丸の内のオフィス街にある三菱一号館美術。

緑も多く、おしゃれなカフェや飲食店が内側に向かってぐるりと並ぶこちらのエリアは、近隣に立ち寄る人々の憩いのスペースになっている様子でした。

この建築は、1894年に英国人建築家、ジョサイア・コンドルによって設計された三菱が東京・丸の内に初めて建設した洋風事務所建築を2010年に復元した建物。

当時英国で流行してた、クイーン・アン様式で作られたこの建築は、復元に際して明治期の設計図や解体時の実測図の精査に加え、各種文献、写真、保存部材などに関する詳細な調査が実施され、階段部の手すりの石材など、保存されていた部材が一部建物内部に再利用されていたりもします。
意匠や部材だけではなく、その製造方法や建築技術まで忠実に再現するなど、さまざまな実験的取り組みが行われたことでも有名。

なるほど、当時の方々が苦労してでも元の建物を復元したかったのも理解できる、とても美しい外観と内装です。

展示だけでなく、建築だけでも大いに見応えがあるので、ついつい通ってしまう美術ファン、建築ファンも多いのでは。

ポスター

 

印象派からの分岐

ルノワールとセザンヌという、一見全く色の違う二人の巨匠の作品を並べた本展示。
彼らの作品にはどの様な共通項があるのでしょうか。

彼らはかつて、同時期に印象派の画家として活動していた期間がありました。
第一回印象派展の立ち上げにも携わっており、家族ぐるみでの付き合いもあったほど、実はかなり仲良しだったそう。

印象派の影響を受け活動していた二人ですが、次第に
ルノワールは印象派ならではの筆触から線描への回帰、
セザンヌは独特の幾何学的な様式へと、
印象派の枠組みを超えて、それぞれの表現の世界へと遷移していきます。

二人に共通している点は、対象の抽象化の方向には進まず、あくまでカタチを保持して描く方向へ進んでいったことでした。

桃
ピエール=オーギュスト・ルノワール 『桃』

オレンジ
ポール・セザンヌ『わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご』

静物画

一章では、ルノワールとセザンヌがそれぞれ描いた静物画が並べて飾られていました。

こうしてみるとどっちがどっちの絵なのか、一目瞭然。
ルノワールの描く静物画はその明るい光の描写と奥行き感が印象的。陽を浴びてキラキラ輝く花びらや、ツヤツヤ可愛くて美味しそうな桃。対象が生き生きと描かれています。

花瓶 ルノワール
ピエール=オーギュスト・ルノワール『花瓶の花』

一方で独特の浮遊感を持つセザンヌ作品。
同じく印象派の光の表現を取り入れることで明るい印象を持った彼の絵ですが、ルノワールの様なリズミカルなツヤ感ではなく、あくまでマットな、そして彼ならではの幾何学描写によって、花や花瓶が浮遊しているかの様にも見えます。

セザンヌの作品は、その色使いがとても美しく、青やピンク、緑色など何層にも様々な色が塗り重ねられているのが、近くで見るとよく分かります。
抑制的に見えつつも、様々な表情を見せてくれる色使いがとても魅力的でした。

青い花瓶 セザンヌ
ポール・セザンヌ 『青い花瓶』

戸外制作

続いてのセクションでは、二人の風景画の数々を見ることができます。

セザンヌによる赤い岩の作品は、放棄されたかつての採石場の様子を描いた作品、人の手による直角に切り出された岩の固い幾何学的な質感と、人がいなくなり、再び勢いよく生い茂る生き生きとした緑の対比がとてもリズミカルな1作です。

赤い
ポール・セザンヌ『赤い岩』

こちらは、同じくセザンヌによる船と水浴する人々。

水浴
ポール・セザンヌ『船と水浴する人々』

3つのピースに分断されていた本作品は、現在は一繋がりになっていた元の姿に復元され、展示されています。
よく見るとつなぎ目のところに、修正の痕跡が確認できるかと思います。
水面に映る日の光の色や、対岸に寝そべる人々の、人体の持つ曲線の感じがとても美しいですね。

対してこちらはルノワールの風景画。

川
ピエール=オーギュスト・ルノワール『セーヌ川のはしけ』

物凄く細かく写実的な表現が印象的です。所々立定的に塗られた絵の具が、本物の様な質感を演出しています。

ルノワールの風景画は、作品のどの箇所を見ても、その場所の温度や流れる時間、空気感を感じられる様な、見たことない景色だけれどあたかも知っている風景の様に、リアルな情景として立ち上がってくる感じが、まるで映画みたいだなあと感じました。

こんな風に見えてくるのも、カラーテレビや映像媒体が当たり前に身の回りに溢れる我々現代人ならではかもしれないですね。

人物画

続くフロアでは、二人の描く人物画がずらり。
個人的には最も、二人それぞれの個性を感じることのできたセクションとなりました。

こちらはセザンヌの描いた人物画。

夫人
ポール・セザンヌ『セザンヌ夫人の肖像』

こちらはルノワールの描いた人物画です。

少女
ピエール=オーギュスト・ルノワール『ピアノ前のイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル』

描かれるモデルの表情が全く違っていますよね。
ほとんど表情がなく、どこか遠くを見ている様なセザンヌの描く人々。

先ほどの「船と水浴する人々」を思い出すと、セザンヌは人間すらその体を物体として捉えて描いているのかも…という気になりました。

一方で、今にも喋り出しそうなほど、表情豊かに描かれるルノワール作品の人々。
柔らかな髪や肌、赤く染まる頬、賢そうな瞳…。
見ているこっちがワクワクしてしまうほどに、「可愛い」のです。

特に、彼の描いた息子たちの肖像画には驚かされます。
成長過程を追う様に子ども達の様々なシーンを絵画に収めていたルノワール。

生後1歳ほどの肌と5歳くらいの肌を、完璧に描き分けています。
これらの作品を見ていると、彼は本当に人が好きで、人物を描くのが好きだったのだなあと感じます。

妻子
ピエール=オーギュスト・ルノワール『ガブリエルとジャン』

娘
ピエール=オーギュスト・ルノワール『遊ぶクロード・ルノワール』
あ、ちなみに、息子と書いているが女の子の絵じゃないか!と思った方もいますよね。
当時は男児の死亡率が高く、幼い男児には女の子の服を着せて死神の目を欺いていたらしいのです。ヨーロッパだけでなく、東洋にも同様の文化があったとか。

終わりに

「彼らは新世代の芸術家にとって、古典でもありモダンでもある、お手本みたいな存在」。

最後のセクションに綴られていた一文に、胸を打たれました。
彼らの試行錯誤から生み出された作品は、そのあとに続く人々に大きく影響を与えるものでした。

かの有名なピカソも、二人の作品から影響を受けて、独自のキュビズムの世界へ進んで行くことになります。
一見全く別々の表現タイプに見えるルノワールとセザンヌですが、後進たちにとって、美術の歴史において、彼らは等しく偉大な存在だったのだ、ということがわかります。
違うプロセスを辿りながらも、どこか同じ景色と問題定義を持って活動していた二人の姿は、芸術が時代を映す鏡であるということを改めて考えさせてくれた様な気がしました。

写真

本展示は9/7まで。東京丸の内で見ることができます。

二人の偉大な巨匠たちの作品を比較しながら見て回れる、贅沢で、美術初心者の方にも見やすく楽しい内容。
是非是非休日のご予定に、いかがでしょうか。

 

ポスター
『ルノワール×セザンヌーモダンを拓いた二人の巨匠ー』

会場:三菱一号館美術館

会期:2025年5月29日[土]-2025年9月7日[日]

開館時間:10:00-18:00(金曜日は20:00まで)
休館日 毎週月曜日

祝日を除く金曜日と第2水曜日、9月1日~9月7日は20時まで)
【夏の特別夜間開館】8月の毎週土曜日も20時まで開館します。
※入館は閉館の30分前まで

チケット:
一般 2,500円、大学生 1,500円、高校生1,300円 中学生以下:無料

その他詳細はこちら
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2024/tsuguharu-foujita/



Bologna series 2024-24【アートプリント】
CRAFT-Log.(井上陽子)

I am
shu
¥18,000
ECHO
ECHO

ECHO
Nyra
¥44,000
シロガネ/9°
シロガネ/9°

シロガネ/9°
JUN
¥21,000
ラブリーピンクラブラドールレトリバー
ラブリーピンクラブラドールレトリバー

ラブリーピンクラブラドールレトリバー
田村田
¥40,000