ミニマリズムとは?ミニマルアートとの違いって何?事例や現代への影響を徹底解説

投稿日:(金)

ミニマリズムとは

目次

2022.9.23.UPDATE

美術館の展示を見ていると、「ミニマリズム」「ミニマルアート」などの言葉が出て来ますよね。

特に「ミニマリズム」と「ミニマルアート」は同じような意味で解説されており、何が違うのか?と混同される方も多いと思います。

そこで、今回は美術学で修士を取得したアーティストのにしはるが「ミニマリズム」と「ミニマルアート」について解説しちゃいます。

それぞれの言葉の意味だけでなく、事例や後世への影響までしっかり解説したので、これを読んだだけで今までと少し美術の見方が変わってくるかもしれません!

 

「ミニマリズム」と「ミニマルアート」の違いとは?

実際にネットで検索すると、「ミニマリズム」と「ミニマルアート」は同じような意味で解説されていることが多い。しかし、両者の違いについて語られているケースは少ないので、まず、「ミニマリズム」と「ミニマルアート」は何が違うのか?について解説したい。

まず「ミニマリズム」は最小限の要素でモノゴトやデザイン、アートを構築していくムーブメント(運動)の意味として使われている。

それに対し、「ミニマルアート」はアートや美術の中で最小限の要素によって構成した表現や作品を指す言葉として使用されている。

つまり、「ミニマリズム」はミニマルアートよりも大きい言葉の意味で使われており、「ミニマルアート」はミニマリズムの中でのアートの分野を指す際に使用される事が多いと言えるだろう。

 ミニマリズムとミニマルアートの違い 

それでは「ミリマリズム」や「ミニマルアート」の意味や起源はどこから来るのだろうか?

「ミニマリズム」とは?

ミニマリズムの本来の意味

「ミニマリズム」の意味は、最小限の要素だけを用いる手法・様式を意味し、「minimal(ミニマル)」という単語から派生したもの。

20世紀の芸術運動の1つで1960年代の半ばから、アメリカを中心に広がった。当初は美術から始まったムーブメントだったが、次第に建築やライフスタイルなど様々な方面で影響を及ぼす。

影響を及ぼした主な事例

「最小限」や「最小限の要素を用いる」という意味で使われているミニマリズム。ここからはアートやライフスタイルにまで広く定着したミニマリズムの事例について紹介する。

 

〇アートの世界

アートを皮切りに大きく広がったミニマリズム。美術の分野では「ミニマルアート」として紹介されることも多い。華美な装飾を省き、最小限の要素で表現している手法が特徴的だ。

こちらについては具体的なアーティスト例をあげて、詳しく後述していきたい。

ミニマリズムとは

引用:https://juddfoundation.org/art/untitled-25-2/

 

〇生活スタイル

私たちの日常の中でも、ミニマリズムはかなり浸透している。身近な例を挙げると「ミニマリスト」もその1つだ。余計なものは持たずにシンプルに生きていくという考え方は、「minimal=最小限」の思考に影響されていると言っても良いだろう。

ちなみに、日本では馴染み深い無印良品もミニマリズムとしての生活スタイルを提案しているビジネスモデルの1例である。

ミニマリズムとは 

 

〇ファッション

ファッションにおいても無駄なものを極限まで省いたデザインがある。最小限のデザインに、使用する素材にこだわることで、シンプルかつ高機能な洋服を生み出している。特にヘルムート・ラングはその1人。

ミニマリズムとは
引用:https://www.uniqlo.com/jp/ja/special-feature/helmutlang/22fw

 

〇建築

建築もファッション同様に「最小限で合理的で無駄のない機能」の追求が行われた分野の1つ。設計段階でのシンプルさと素材の使用方法によって、無駄なく合理的な建築が設計された。素材の視点においては、特にガラスや鉄骨、コンクリートが多く使用されている傾向がある。

海外ではミース・ファン・デル・ローエ、日本では安藤忠雄がミニマリズム建築の例として挙げられる。

ミース・ファン・デル・ローエ

ミニマリズムとは

引用:https://hash-casa.com/2019/06/17/farnsworthhouse/

 

安藤忠雄

ミニマリズムとは

引用:http://www.hetgallery.com/ando.html

 

ここまで「ミニマリズム」と各業界の事例について解説してきた。ここからはミニマルアートについて詳しく説明していこうと思う。

 

「ミニマルアート」とは?

ミニマルアートの意味

「ミニマルアート」(Minimal Art)とは、「最小限のアート」という意味で、1960年代から70年代のアメリカを中心に発生した表現方法である。

絵画や彫刻だけでなく、反復性を元に全体の音楽を構成する「ミニマル・ミュージック」など、芸術の分野内外で大きな影響を与えた。

主な特徴

ミニマリズムと同様に「最小限」がキーワードとなっているミニマルアート。しかし、その中には様々な表現方法が存在している。そこで、ここからはミニマルアートの特徴的な表現を解説する。

 

〇サイトスペシフィック

サイトスペシフィック(Site-Specific)とは、作品を展示する場所における固有性(環境、文化、歴史、政治的な背景等)を作品そのものの文脈として内包し、展開していく表現方法のこと。
1970年代以降、絵画や彫刻の概念が拡張され、インスタレーションやパブリック・アートなどの表現様式が生まれたことがサイトスペシフィックな作品が生まれるきっかけとなったと言われている。

場所の固有性に特化するサイトスペシフィックアートは、ミニマルアートにおける最小限というキーワードを「素材=場所を最大限に活用する」という視点で提示しているからこそ、今日もミニマルアートの1例としてサイトスペシフィックアートが挙げられるのではないだろうか。


ここでは国内の事例として、ベネッセアートサイト直島を紹介する。


 

瀬戸内国際芸術祭の舞台となっている直島。
ホテルと美術館が合体した「ベネッセハウス ミュージアム」がある島である。自然やアート、建築との共生をコンセプトに島全体がアートの島のような場所で、島独特の自然の豊かさを生かした建築や作品が各所に展示されている様子が特徴的だ。


ここでは、美術館の巡回展のようにパッケージ化された作品を置くだけでなく、島の自然や気候を生かした展示を長期間行うことで、作品自体がその場所の一部となっていく様子も見て取れる。最近だと、2021年の台風で草間彌生の作品が破損したことも、この取組自体がサイトスペシフィックであることを証明したように感じた。

記事:黄色いカボチャいつ復活?台風で損壊、香川・直島

〇反復性

ミニマルアートで最も特徴的な表現として挙げられる「反復性」である。正方形や円形、線などの同じ形を繰り返す形を作品として表現している。

ドナルドジャッド

ミニマリズムとは

引用:https://juddfoundation.org/art/untitled-17/

18世紀のロココ美術のような華美な装飾とは異なり、四角や円形など極限まで無駄を省いたモチーフによって構成される作品。徹底的に抽象化された表現だからこそ、アートの純粋さや素材の固有性などに目を向ける、ある種の還元主義的な思考も内包されていると言えるだろう。

〇素材の物質性

ミニマルアートと呼ばれる表現の中で、特に彫刻作品では素材の物質性が注視される。ここでは「物質性」のことを物体そのものが存在していることや物体が持つ素材という意味で使用する。

彫刻作品の中で使用する素材の物質性に注目することで、作品から得るイメージだけでなく、作品の存在感や感触、匂いなど五感に働きかけるような表現となる点が特徴だ。

ロバート・モリス
ミニマリズムとは

引用:https://www.tate.org.uk/art/artworks/morris-untitled-t01532

ミニマルアートの例としてよく挙げられるロバート・モリスも実際に身体性を利用した「Bodyspacemotionthings」を1971年に発表している。この展示はインタラクティブな彫刻の中で空間や鑑賞者の身体性についての概念を実験したものだ。

この展示だけ見れば、ミニマルアートではなく、パフォーマンスアートの方が近いのではないか?と感じる人もいるだろう。その指摘は正しいと思う。しかし、私がここで伝えたいことは、作品の物質性はパフォーマンスやインスタレーションのような身体性と近い所にあるという点だ。

ミニマリズムとは

引用:https://www.tate.org.uk/research/publications/performance-at-tate/perspectives/robert-morris

ミニマリズムが後世へ与えた影響

コンセプチュアルアートとの関係性

現代のアートシーンに大きな影響を与えているコンセプチュアルアート。ミニマルアートは知らないけど、コンセプチュアルアートは聞いたことがある、という方もいるだろう。

実はこのコンセプチュアルアートとミニマルアートは、ほぼ同時代的に発生した芸術運動でもある。さらに、双方の芸術運動は激動の20世紀において様々な歴史的運動(フォービズム、キュビズム、未来派、ダダ、シュルレアリスム)の影響と両者間の相互的な影響から発生したものと言えるだろう。

もう少し時系列をまとめて整理しよう。始まりはどちらも1910年代。

ミニマリズムはシュプレマティズム(絶対主義)の代表的な作家であったカジミール・セヴェリノヴィッチ・マレーヴィチが1915年に「黒い四角」を制作したこと、コンセプチュアルアートは1917年にマルセル・デュシャンが「泉」と題した作品を出展したことが始まりだ。

1910年代に発生したそれぞれの芸術運動は1950年代以降にアメリカとヨーロッパで再発生した後、ほぼ同時代的にライフスタイルや後世の芸術に大きな影響力を持つ作品を残した。

コンセプチュアルアートは作品そのものの美しさなどを評価するのではなく、コンセプトなどを重視した点に対し、ミニマルアートは華美な装飾を徹底的に省き、素材や物質そのものに対しての追及を行った。

双方の手法には若干異なる点もあるが、共通点として「従来の美術=美的なもの、美しいもの」という概念に対する抵抗があったと言える。

補足的に説明すると、20世紀の芸術運動全体を通して「美しさ」という概念に挑んでいた時期でもある為、コンセプチュアルアート、ミニマルアートはある種それらの総決算期にあった運動とも言えるだろう。

そんな「美しさ」への挑戦によって、ミニマリズムは今日のライフスタイルや建築、ファッションなどに大きな影響を与えたのだ。

まとめ

いかがでしたか?
20世紀に発生したミニマリズムは国や時代を越えて、アーティスト達が「美」という大きな概念に挑んだ芸術運動でした。

「美とは何か?」という問題意識に対して、「最小限であること」を提示したミニマリズム。美術の分野を通して表現したシンプルであることの美しさは、建築やファッション、日常生活の中で深く私たちの生活に根付いていると言えるでしょう。

現代では「シンプルであること」が些細で当たり前のようにも思える考え方ですが、そんな考え方のルーツを知るだけでもワクワクしてきますね。

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