和歌山県を拠点に活動する画家【坂口裕美インタビュー】画家の道、多分それは「けもの道」
投稿日:(水)
目次
画家の道、多分それは「けもの道」
初めまして。画家の坂口裕美と申します。
和歌山県を拠点に、主に近畿圏で作品を展示、発表しています。
今回は私が画家になりたいと思ったきっかけと、今制作している作品のシリーズについてお話ししたいと思います。
2021年6月の個展にて
画家になったきっかけ
私が画家になりたいと思ったきっかけの一つとして、ある画家の絵がありました。
パウル・クレーの《本道とわき道》という絵です。
高校生の頃、家にあったクレーの画集を眺めていて、この絵に目が留まりました。
まず色合いがとても複雑で綺麗で、つぎに構図の巧みさに驚きます。
そしてこの絵を見た人はきっと、自分の人生のここから先に続く道と、その端(はた)にあるわき道に思いを馳せるのではないかと思います。
「絵画ってすごい」と思いました。
画家になりたいと思ったもう一つのきっかけは、当時私が通っていた画塾の先生に連れられて、ギャラリー巡りをしたことでした。
先生も美術作家として活動していて、時折、先生の展覧会を観に行くこともありました。
そこで、同じ時を生きている美術作家の活動を知り、いつか私もギャラリーで展覧会をしたいと思うようになりました。
その後、美術大学に入学し、学問としての「美術」や「絵画」についても学びました。
与えられた課題に取り組むことから始まり、徐々に自分の作品を制作するための模索をしていきます。
その一方で、美術作家であり母校の教授でもあった、ある方から聞いた、私にとって目からうろこだった話をご紹介します。
人間とは本来とても豊かなもの。
それに対して「美術」や「絵画」というものは後から定義されたもの。
「美術」や「絵画」を学んで、自分の描く絵に対して混乱してしまう人は多い。
だから、こう描けば「美術」として価値がある絵になるんじゃないかとか、そんなことは考えなくていい。君の内側から自然に湧き出るものを描きなさい。描けるから。
このお話を聞いて、「美術」や「絵画」についての学びは続けながらも、自分の感覚に対して素直に、制作に取り組んでいきたいと改めて思いました。
下は大学院のときに同級生の友人と韓国旅行へ行ったときの写真です。彼女の知り合いのハンガリー人のアーティストが、現地でレジデンスに参加しており、行動をともにしました。
制作中のシリーズについて
さて、では現在私が取り組んでいる作品のシリーズについて、お話ししたいと思います。
複数のシリーズを制作しているのですが、今回はその中から【One by Oneシリーズ】についてお話しします。
【One by One シリーズ】
日常生活でふと気になることや、その時々に自分が思っていることを絵とリンクさせながら描いた作品群を“One by Oneシリーズ”としています。
“One by One”=「それぞれの」という意味で、それぞれの絵にそれぞれのストーリーや込めた意味があります。
描き始めは自作の「型紙」を使って筆を進めたり、アクセサリーなどに使われる「ビーズ」を見ながら描いたりするのですが、完成に近づくにつれて「この絵は何なのだろう?」と自分に問いかけていきます。
考えながら描き進めて、その時に気になっていることや、自身の「内面」を絵とリンクさせていき、徐々に「タイトル」を決め、完成させています。
【One by Oneシリーズ】の中から"Fate (1)"という絵にまつわる話をご紹介します。
この"Fate(1)"という絵では、画面左側では「型紙」を使い、右側では「ビーズ」の映り込みを描いているのですが、このビーズの部分が、何か「不穏なほほえみ」、それも「死神」や「悪魔」のように見えました。
そのため、「Destiny =運命」よりも少しネガティブなニュアンスの「Fate =宿命」というタイトルを付けました。
けれど後日、ある方がこの絵を見たとき、私が「不穏なほほえみ」を連想したビーズの部分を、「天使が羽を広げているみたい」と言うのを聞いて、驚きました。
程度にもよると思いますが、物事は捉え方次第で良いようにも悪いようにも受け取れる、そんなことを教えてもらったように感じました。
今となっては、「天使」にも「死神」にも見える、というのが「宿命」というタイトルにピッタリな気がしています。
【One by Oneシリーズ】には、このほかに"Tears'や"Feel invisible walls"などがあります。
Tears(作品の詳細はこちら)
Feel invisible walls(作品の詳細はこちら)
今回ご紹介した【One by Oneシリーズ】のほかにも幾つかのシリーズを制作しています。
【図と地シリーズ】のように制作のプロセスを明確にすることによって、自身の複雑な「内面」からは少し距離を置き、「色彩」と「形」に対する「感覚」にフォーカスしたものもあります。
WASABI様でも取り扱っていただいているので、よろしければ見てみてくださいね。
図と地(9)(作品の詳細はこちら)
図と地(15)(作品の詳細はこちら)
最後に
さて、この度は私の不慣れな文章にもかかわらず、最後まで読んでいただきありがとうございました。
これからも、自分の感覚に素直に、時に楽しく、時に落ち込んでも、制作していきたいと思っています。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
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