ロシア人アーティストから見る日本のアート。「日本は便利だから、日本人は絵に興味がない」という言葉の意味とは?【画家・Alex Einbinderインタビュー】
投稿日:(金)

目次
AlexEinbinderインタビュー
ロシア人ながらイスラエルなど中東諸国で暮らし、現在は日本で長年活動を続けるアーティストAlex。
様々な表現を日々ミックスして新しい技法にトライするAlexが、目指す「インタラクティブ・アート」とは?
また、「便利だからこそ、アートにみんな興味がない」と日本人を評する理由とは。
アーティストの素顔、迫ります!

Alex Einbinder
ロシア出身、東京都在住。多くの国々を渡り歩いた経験から、独特の視点を持ちインタラクティブなアート作品を作り出している。

Alexさん、今日はよろしくお願いします。今、ご自宅件アトリエにお邪魔していますが…すごい自宅で驚いています。
壁に掛かっているのはAlexさんの作品ですよね?

そうですよ。実は自宅も自分で設計しました。家具も自分で作っているものが多いです。

3階建てのAlexの自宅。作品が飾られている。

えー!すごいですね。まさか家まで作ってしまうとは。

しっくりくるサイズのものはなかなかないですからね。

なるほど。こうして日本語でインタビューさせていただいているんですが、Alexさんはロシアの方なんですよね。日本に来られたのは何年前ですか?

15年前から住んでますね。

結構もう長いですね!
イスラエルと日本のアート活動の違い


アーティストとしては、いつから活動されていたんですか?

僕はロシアで生まれたんですが、その後家族の事情でイスラエルに引っ越しました。イスラエルのアートスクールで勉強したことがきっかけですね。絵は昔から好きで、高校の時からインスタレーション(※)を勉強していました。
※インスタレーション…展示空間も含めて作品とみなす手法。

高校からインスタレーションを学ぶところは日本ではあまりない気がします。その後はどうされたんですか?

音楽活動などもしていましたが、6年前から日本でアーティストとして活動を再開しました。個展やグループ展を重ねていくうちに、個人的な人脈ができてきましたね。

そうなんですね。
イスラエルと日本では、アート活動に差はありますか?

あります。日本はアートよりクラフトが好きですよね!手作りの一点ものはすごくウケがいいですよね。それと、コミュニティでのアート活動が多いなぁと。

アーティストはコミュニティを作って活動しがち、ということでしょうか。それは良いことだと思いますか?

僕は・・・正直合わないですね。
コラボレーションはいいですが、自分のクレジットで自分のものを出したい。グループで決めずに、自分でやってしまえばいいのにな、と思います。

なるほど。
日本は「便利」だから日本人はアートに興味がない?

もう15年も日本に住まれてますけど、住みやすくはありますか?

住みやすいですよ。何より小さくてすべてが便利ですね。
だから、アートに興味がない人が多いのではないでしょうか。

それは面白い意見ですね!つまりどういうことでしょう?

日本にいれば大抵のものは手に入ります。僕は、アートはなにかに抗ったり、苦しんだりしている時にこそ生まれることが多いと思うんですが、そうなる環境が日本にはないですね。


鑑賞する側も、便利な世界で満たされているわけですから、逆にアートが入り込む心の隙間がないのではないでしょうか。

なるほど。私は生活に余裕があるからこそ、アートを楽しめると思っていましたが、たしかにそういう側面もありそうですね。

僕はいろいろな国で生活をしてきたこともあり、いつも0からスタートする時は大変な苦労がありました。そういうのもアートには絶対に反映されているはずなんですよね。
様々な表現技法に挑み続ける


Alexさんのアートは、いい意味で試行錯誤の後がすごく見えますよね。レイヤーの数もものすごいですし。

そうですね!
すべてを塗りつぶして描き直すこともよくあります。

全部、疾走感がある素敵な作品ですよね。テクスチャーが独特な作品もいくつもあって、絵画というよりは立体のようにも見えますね。

いろいろな表現技法は試していますね。よく使うのはジェッソなどですが、この絵はフィルムを貼り付けてからはがしています。だから焼け焦げたようにみえます。


ほんとですね!
最近のシリーズも、表面の厚みに筋が通っていてすごく特徴がありますよね。私この絵をみて、日本の石庭みたいだなーと思ったんです。

それは面白いですね!
日本から受けた影響は、色使いにも表れていると思います。

それと、この大きな花の絵は暖かい空気を当てると色が変わるんですよね。

そうですね。そういう粉末を混ぜ合わせているので、ほんのり鮮やかな黄色に変化していきます。

インタラクティブアート(※)ですね。面白いですよね。一見したら普通の絵画なのに。
※観客を何らかの方法で参加させる芸術の形態。
「解き明かしたい」と思えるアートを作りたい

今後はどういうアートを作っていきたいですか?

やはりもっとインタラクションを取り入れたいですね。普通、絵は動かないものだけど、コミュニケーションできるような。

難しそうですね・・・

はい、難しいですね。やる前に、どうやったらできるか手法を考えないといけません。でもそれが楽しいですね。


一見ただの絵画、なのにインタラクティブということですよね。これは見る人は驚きそうです。

驚かせたいですね(笑)
日本のアーティストだと、横尾忠則さんがとても面白いなと思います。レイヤーを重ねに重ねて描くアートに美学を感じます。

Alexさんが自宅を設計された、っていうことにも通じる気がしますが、「こういう技法をしたらどうなるんだろう?人はどういう反応をするんだろう?」ということを常に考えているな、と。探究心がすごいですよね。

そうですね!
いつか、スペースごと一から制作してみたいです。そのために、まだまだ勉強したいこともたくさんあります。ベルリンのアートカレッジに行こうかな、とも考えているんです。


インタラクションをデザインする時には、アートだけではなくてその周りの空間も、流れる音楽もすべて設計しなければならない。それに挑戦することにワクワクしますね。

挑戦し続ける姿勢、いつまでも応援しています。Alexさん、ありがとうございました。