吸い込まれるような独特の世界観。あえて“受け身”で描かれる抽象画の魅力とは?アーティスト・熊谷香里インタビュー

by WASABI運営事務局

2019.9.9

アーティストの素顔

吸い込まれるような独特の世界観。あえて“受け身”で描かれる抽象画の魅力とは?
アーティスト・熊谷香里インタビュー

 

NOMALライター 吉田

自宅兼アトリエのある習志野市を拠点にアーティストとして活動する熊谷さん。

現在は、ボランティア団体に参加しながら子ども向けにアートのワークショップを開催している。その一方で、展覧会やアートイベントを立ち上げたりなどのプロデュース活動も行っている。
 
今回は、アーティストとして多岐にわたり活動されている熊谷さんのアトリエにお邪魔してインタビューしてきました。
 




 

 

夢を追いかけ単身アメリカへ

アーティストになったきっかけってなんでしょう?


 
生まれが田舎だったので、友達もあんまり近くにいなかったんですよ。暇つぶしに絵を描いたりお話をつくって披露していたら、それがすごく褒められて。どんどん好きになっていきました。

 
進学を考える歳になった時には、「絵本作家になろう」と絵本科のある専門学校に進みました。



ピッタリの夢ですね。

 

はい。でも専門学校で学んでいるうちに、アニメーションやクレイアニメーションにも興味が出てきて。卒業後はアメリカへ行きました。


 
急にアメリカ!?
 


はい、ハリウッドにある映画監督になるための学校ですね。脚本も映像も含めて総合的な勉強をしていました。


映画監督になろうとしていたんですか?
 


そうです。ティム・バートンのようになりたかったんです。「ディズニーに就職して映画監督」という道を目指してたんですけど…
その時にテロが起きてしまい…。
 


2011年の同時多発テロですね。
 


私の住んでいた地域も標的になっていたので、怯えながら生活していました。アメリカで就職する気でしたが、さすがに親も心配していたので帰国を決意しました。

 

葛藤が続く中、亡き父が見せてくれた死後の世界がトリガーに

帰国してからは?
 

帰ってきてからは、なんとなく宙ぶらりんになっていました。ただ、普通に就職するのも嫌だったので、キャラクターを描いたりイラストレーターの仕事をしながら、「とにかく創作活動からは離れないように」意識していました。
 

でもそれって、私の思うアーティストじゃなかったんです。生きてはいけるけど、「私らしさ」っていうのがなく、つらかったです。


 

これがその当時の作品ですか?

そうですね。
 

アーティストさんに対して当たり前すぎて失礼なんですが、めっちゃ上手いですよね。綺麗だし。
 

ありがとうございます。でも、「それだけ」なんですよ。浅いというか、説得力がないというか。
 

熊谷さんがいま描かれている抽象画のイメージとはだいぶ違いますが、なにか今の作風になったきっかけがあるんでしょうか?
 

私が25歳のときに父が亡くなったのですが、しばらくしてから夢を見たんです。
 
 

つつじの花畑の中を、父が運転する車でドライブしている夢でした。死後の世界ってこういう世界なのかなぁと思ったし、なによりも「平和な世界だなぁ」って。
 

その夢を見てからですね、ぼーっと見ているだけで人を癒せる絵を描けたら良いなぁと思うようになったのは。私、「受け身の作品」をつくりたいと思っているんです。
 

受け身、ですか?
 

はい。なんか別に、考える必要があるのかなって。疲れちゃうじゃないですか、その人の訴えや想いとかをずっと見てるのって。

 

そうじゃなくて、逆に絵が吸ってくれるような、その絵を見てたら気持ちが晴れるような「受け身の作品」があってもいいんじゃないかって。そういう作品を生み出していきたいです。

イメージで広がる抽象画の奥深さ

ずっと気になってなんですけど、すごいですね後ろの絵。これは…雨ですか?
 

 

はい、仏さまが涙を流しているようなイメージです。「慈悲の雨」というタイトルで、仏教の禅の世界を表現しています。雨って、洗い流すようなイメージありませんか?自分の罪が洗い流されるような、救いの慈愛心を表現しています。
 

なんとなくですが、目を瞑ると絵の世界が広がるような感じがします。
 

まさにそれです!スッと入り込んでいけるような。私の他の作品もそうなんですが、あまり主人公を人として描かないんですよ。見てくれる人が主人公で、絵はその背景であり入り込める世界。抽象画の面白さはそこにあると思っています。

 

こっちの絵はなにを表現していると思います?
 
 

なんだろ…優しい絵だなとは思います。
 

この絵は、「音」がテーマなんですよ。
 

音がテーマ!なるほど。
 

わたしがこの絵で表現したいのは、日常に溢れる微かな音。
例えば公園。子どもたちが遊んでいる声や、風で木の葉が揺れる音、鳥のさえずり。この絵を見て日常に溶け込んでもらいたいなぁと思って描きました。どんな音か想像するのとか楽しくないですか?

 

たしかに。絵を見て、目を閉じて想像して、また絵を見る。なんか良いですね。
 

進化する芸術に食らいつくため、大学の門を叩く 

「アーティストとして深みがない時期があった」とお伺いしましたが、抽象画と出会ってからは、もう迷いなく突き進んでいる感じですか?


 

そんなことないです!やっぱり売れたいという気持ちはあったので、いろんな人の意見を聞いては動揺し、翻弄され、涙を流す日々でした(笑)かなりブレていました。

ほんと最近です、自信を持てるようになったのは。

 

なにかきっかけがあったんですか?


 

なんだろう、許可が下りたんですよ。自分の中で。もう大丈夫!って。
 


 

えっと…すんません、どういうことでしょうか。



 

なんて言えば良いですかね(笑)とにかく根拠のない自信がついたんです。最近大学でいろいろ勉強したからでしょうか?


 

え、大学に通ってるんですか?


 

通信ですが。今までは「アーティストだから描ければいい」と思っていましたが、「アーティストだからこそ、さらに深めなければ」と気づきました。今まで知らなかった歴史を学んで教養を身につける。そうすることで説得力も生まれるし、やりたいことも自然と深まると思います。大学の門を叩いて本当に良かったと思います。
 

凄いですね。今から大学に通って勉強する…自分では想像できないです。


 

もともと勉強は好きじゃないですが、好奇心は旺盛なので。芸術って常に進化してるじゃないですか。なので、芸術という学問をしっかり学んできちんと語れるようになりたいです。
 

ブレない軸で新たなジャンルを切り開く

今後の目標は?
 

私の作品は、癒やしが必要な場所に向いてると思います。例えば病院とか。ぼーっと見ながらでも自分を見つめ直したり、楽になってくれたらいいな。そういう作品をつくっていきたいです。

 

あとは、新しいジャンルを確立させたいです。
 

新しいジャンルとは?
 

いま考えているのは、光を取り入れた半透明なアートです。世界のどこかでは既にやってる人がいるかもしれないですが、周りには見当たらないので。
 

キャンバスに絵を描くのも楽しいですが、ある程度やり尽くされたアートの世界で新しいジャンルを探すのは楽しいです。今までにないものをつくりたいし、これからを生きるアーティストには必要なことなのかなと思います。
 

現状に満足せずってことですね。
 

そうですね。アートとは何か?と悩んだ時期もありましたが、やっぱりアートは答えがないから楽しいです。

今は何を言われてもブレない軸ができたし、追求したらキリがない。やりたいことが止まらないです。
 

ちなみにアーティスト活動はいつまで?
 

死ぬまで、ですね。それしかできることないですから(笑)
 

カッコイイ!これからも応援しています、今日はありがとうございました!