絵と文ミックスした独特のスタイルで描かれる、力強いが繊細な人物画。アーティストYUCK’N’ROLLインタビュー
投稿日:(金)
目次
絵の中に文字が組み込まれている独特のスタイルで描かれる、力強いが繊細な人物画。
内に秘めるものの自己発信のようでもあり、他者への心強いエールにも見える絵画が生まれるようになったきっかけは?
サラリーマンとしても、アーティストとしても活動するその素顔、迫ります!
YUCK'N'ROLL
大阪府出身、兵庫県在住。絵画の中に文字を組み入れてアートの一部とする独特のスタイルで、インパクトのある作品の数々を生み出し続けている。サラリーマンとして働きながらも精力的に制作活動中。
サラリーマンをしながら絵を描くということ
YUCK’N’ROLL(以下ゆっくん)さん、今日はよろしくお願いします。ゆっくんさんとは、神戸のギャラリーカフェで初めてお会いしたんですよね。
そうですね!懐かしい。
あの時ゆっくんさんのスタイルの1つである「ボールペンアート」をみて、「この人何者?!」って思ったのをよく覚えています。
ありがとうございます(笑)
ゆっくんさんはアーティストとしても活動されていますが、所謂「サラリーマン」をしながら絵を描かれていますよね。
そうですね。職業は普通のサラリーマンです。美術部だったとか、美大出身とかではないですが、絵を描くことはずっと好きでしたね。
描きはじめたきっかけはなんだったんですか?
単純に絵を描くことは小さい時から得意で、そして好きでした。自分が得意なことって、いつか誰かの目につくだろうって、かなり傲慢な考えを持っていたんです(笑)でも、大学生のときに、絵を描くことに本気で取り組んでいる友人の絵をみたときに、「これじゃだめだ!本気で取り組んでみよう!」と思いたって、活動をはじめましたね。
「ロックンロール」に救われた夏
そうだったんですね!その頃から「YUCK’N’ROLL」という名前で活動されてたんですか?アーティスト名が「YUCK’N’ROLL」って、覚えやすいし、リズムがいいですが、この名前はどこから生まれたんでしょう。
高校生の時ですね。
もともと普通の高校生活に憧れてたのに、1年生で部活をやめてしまったんですよね。そこから一気に落ち込みまして。時間だけがあって、勉強もしない、何にも興味がない。みんな部活が忙しいから、遊ぶ友達もいない。 2年生の夏休みはずっと家にこもっていたんです。本当にどうなっちゃうんだろう、生きていく方法が見つからない、と思っていました。
その頃、僕の部屋には小さなラジカセがあったんです。毎日毎日ラジオばかり聞いてたんですよ。その時に流れてきたたくさんの音楽になんとなく救われた気がしました。「ロックンロール」がすごく心に刺さったんです。
「ロックンロール」という言葉はもちろん知っていますが、いざどういう意味かと言われると、わからないかもしれません。
そうですね。
もちろん解釈は人それぞれですが…僕には「投げやりになるなよ、気持ちはわかるから。安心しろよ。」と言ってくれる感じ。そのとき自分に自信がなかったんですが、「君はもっとすごいことできる人間だぞ」って言われてるような気がしました(笑)
ロックに救われたんですね。
救われたというのは大げさかもしれませんが、なんとなく光が見えた気がしたんですよね。
ロックンロールに支えてもらって、背中を押されてるような感覚というか。
でも気持ちはわかります。何かに背中を押されることはありますよね。
それで、自分のあだ名に「ロックンロール」を組み合わせて、「YUCK’N’ROLL」を合言葉にしました。「ロックンロール」という言葉を入れることで、少し強くなれるような気がしたんですね。
絵とミックスするから、思い切って言葉を書ける
そうやって、ロックンロールの意識を持ちながら、絵を描きはじめたと。今はいろいろなところで活動されてますが、初めて絵を人前に出したのはいつだったんですか?
初めて展示をしたのは、大学のときですね。
単純な発想で、「自分の周りがやったことないことをやってみよう」と思って。個展いきなりやったら皆びっくりするかな~という動機です(笑)
確かに、大学生のとき同級生が「俺、個展やるで」っていったら驚きます!(笑)
僕、中学生のときにちょっといじめられてた時期があって。でも、いつかすごいことを成し遂げて、見返してやろうって思ってて。スケールの小さな話ですが、その当時は新しいことをやってみたり、進んでみたりするということがすごく刺激的でした。
この時は絵を描くことが楽しくて、たくさん描いてました。絵に言葉を描くのはルール違反な気がしてたんですが、ある日ラジオ流れてきた「くるり」の「さよなら春の日」を聞きながら、ノートに聞こえてくる歌詞を書いてみたんです。そしたら、やっぱり言葉って素敵だなぁと思ったんです。そこから、絵にも言葉を融合させるスタイルになりました。
うん、このスタイルはYUCK’N’ROLLさんのスタイルですね。最初みたとき「そんなのありなんだ!でもかっこいい」って思いましたもん。ただ言葉が書いてあるのではなくて、絵に組み込まれているからこそ、じっくり絵をみて発見できるものがあるんですよね。
ありがとうございます。
絵と言葉だとどっちから着想するんですか?
言葉です。
絵とミックスさせることで照れ臭さを軽減しているのかもしれないですけど、この文字かっこいいなぁとか、この言葉の文字面かっこいいなあとか、そういう感覚で、ストレートに書いてますね。
すっきりしますか。
すっきりします、すごく。日記を書くのと似てますね。
サラリーマンっていいなと思うポイントがある
大学卒業後の進路を考えるとき、「絵で食べていきたい」とは思いましたか?
なんとなく思いましたね。
自分の能力を誰か気づいてくれるんちゃうか、とか。有名になりたい、ぐらいの感覚で。でもやっぱりそんな甘い考えではうまくいかなかったです。心のどこかで、絵を描いて生きていきたいというほど、執着がないことに気づいていました。こんな気持ちで絵で食べていくなんて失礼だろうな、と。
なるほど。そこの思い切りって、すごく難しいですよね。
今思えば、逃げていただけというか、「普通の会社員は嫌だ」みたいな…青臭かったですね。
でも最終的にはまずは働いてみないと、と思ったんです。自分で生活をできるようにならないと、偉そうなこと言えないなと思いまして。
それでも絵は描き続けたんですよね?
はい。入社2年目の時には個展もしました。
「アーティストとして絵を描きたい」という心と「働いて稼がなくてはならない」という思いのバランスが取れてきたのはいつからでしょうか?
そうですね。
入社したころは、会社で働くということがすごくしんどかったんですけど、働いている間に、「あれ、苦手だと思ってたけど、自分にはこういう能力もあったんだ」とか、「興味なかったけど、やってみると面白いな」とか、自分の中で世界が広がる感覚があったんですよ。そのあたりから、サラリーマンをしている自分という顔も必要な気がして、それにプラスして、「YUCK’N’ROLL」という顔があることで、精神的なバランスをとることができ始めた気がします。
それに、社会人になってから出会う人って、今まで自分が出会ったことのない人たちなんですよ。年齢も幅広いし、生き方も人それぞれだし。
そんな中で、絵を描いていることとか、そういう話をするとすごく面白がられたりして。「絵を描く」ということが自分にとっては、人と接する手段にもなるんだと、気づいたりもしました。
絵を描かない方の反応を聞くと嬉しくなっちゃいますよね。勉強になりますし。
そうなんですよね。
働き始めるとサラリーマンって悪くないなと思います。嫌なこともたくさんあるんですけど、人間臭さとか、人間模様とか、そういうことを感じることが、「生きてる」って思えるポイントのような気がしています。
人とのコミュニケーションもそうですけど、忌野清志郎の「サラリーマン」という曲がすごくじっくり聞けるようになったこととか(笑)これは僕にとってはすごくうれしいことでした。 それと、父親のことも思い出しました。
お父さんですか?
大学時代は「サラリーマンなんて嫌だ!」なんて思ってました。でも、働き出してから、小さい頃の記憶がよみがえってきて。毎朝、父親がネクタイを締めて、スーツを着て出勤する姿を思い出したんですよね。
スーツ姿で父親と会ったとき、サラリーマンになってよかったなと思いました。やっと父に近づけたような気がしたんです。
なるほど。そうやって外の世界で生きたコミュニケーションをとることが、絵の動力源にもなっているのかもしれませんね。
なってますね。
昔はうちに秘めていたものを絵に吐き出していましたが、今は日記を書くような感覚です。より精神的な部分に近づいたというか、リラックスして描いている気がします。
あ、これは自分かも、と想像できるような絵を
個人的に気になるのが、1日のスケジュールです笑。お忙しいだろうに、かなり描き込まれた絵を描いてますよね。
そうですね。
1枚あたり、ボールペンだと2時間・3時間かけてます。でも、描きたいなと思ったときに描いてますから。そう思ったら、仕事のあとに一週間毎日書いたりもします。一度、大きい絵を描いて腱鞘炎になったりもしましたね(笑)
腱鞘炎!!
ゆっくんさんの絵って、モチーフも一つの軸がありますよね。「イギリス」「サッカー」「UKロック」みたいな。
好きなものですからね(笑)
なによりユニオンジャックが格好よくて大好きなんですよね。そういえば憧れのイギリスにも行ってきたんですよ。
いいですね!!どうでしたか?
いちいちかっこよくて(笑)期待値を上回るものばかりで感動しました。でも、本当は18歳くらいで行けばよかったですね。あこがれ続けていたので、なんとなく情報が頭に入りすぎていて。何も知らずにいったら、もっと感動したのかもしれないと思いました。
それでも実際に見ると見ないとでは、絶対に違いますもんね。イギリス、うらやましいです。
今後は、どんな絵を描いていきたいですか?
一度ゆっくり時間をかけて一枚の絵を描いてみようかな。 今は写真や、実際の人物を参考に描いていることが多いんですが、自分が描きたい絵を描きたいときにゆっくり描いてみたいです。
特定の誰か、ではなくて、見る人全員が「あ、これ自分かも」と想像できるような。 それと、社会人としての年数も重ねてるので、大人としてしっかりいきたいですね。
YUCK’N’ROLLさんありがとうございました!
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