【鈴木芳雄×大竹寛子】アートの意味が示すビジネスの未来とは?(後編)

投稿日:(金)

アート

目次

2022.3.11.UPDATE

気になる、アートとビジネスの関係性

最近じわじわと世間を賑わせている、アート×ビジネスの話。

 

前編に引き続き、株式会社tremolo主催”アート×ビジネス”をテーマにしたトークショーについてお伝えしていきます!
 

後編ではアートとデザインの違いや、現代美術の思想について触れながら、アートとビジネスのこれからについて話が展開していきます。

【鈴木芳雄×大竹寛子】アートの意味が示すビジネスの未来とは?(前編)

哲学としてのアート、画家にとってのアート、共通言語となり得るアート...「そもそもアートとは?」というテーマについて深掘りしています。

 

ビジネスはアートに嫉妬する

 

ここまでで、アートとビジネスで類似するところが見えてきました。逆にアートとビジネスの相違点はどういったところでしょうか?
 

 


ビジネスはアートに嫉妬している、みたいなことを遠山正道さんとかも言います。現代のビジネスは高度な資本主義社会が発達して成り立ってますが、アートの世界は非常にシンプルでミニマムな資本主義が源流にある。画家が画材を用意して絵を描いてそれが売れることで食べていく、それが何千年も変わってないみたいなところがあって。でも、ビジネスはどんどん広がって複雑化している。根源に立ち返って考える時にアートの商法は一つのサンプルになるものだから、そういうところの憧れがある。特に大きな会社を率いる人たちは少なからず感じることじゃないかな。

 


 その話を聞いてアーティストとして思うのは、アーティストって「こういう絵を描いたら売れるかな」って思って描かないんですよね。そうしてしまったら私たちは、続けられないなって思います。自分の表現したいことが根源にあって、いつも「本当に自分の表現したいものなのか」ということが判断軸となります。





 

 このギャラリーに飾る絵も、この建物を見てからここのために描いただけで、売れることを想定したものではない。まず自分が今一番やりたいことがあって、そこをどう表現したいか。私は”移り変わる時”をコンセプトにしてるんですけどね。どういう和紙を使うかってところも毎回和紙屋さんに足を運んで、絵の具も粉から作ります。目的からじゃなくて「今だったらこういうのを描きたいなぁ」というその時の素直な感情が、表現に出ていると思います。

 


人生100年時代への変化に対応するには?想いから始まるアート、ゴールから始まるデザイン

 

アートと対にして語られるものとしてデザインがあると思うんです。アートは問題提起、デザインは問題解決だと言われることが多いですよね。最近注目されているUX(ユーザーエクスペリエンス)などの分野も、何かしらのゴールが決まっている、もしくはゴールを定めたいと思っていて、そこに至るための道を探求しているように感じられます。それもデザインですよね。でもアートはどちらかというとゴールがあるというよりは、最初に想いがあるのかなって。もちろん、デザインにも想いを持って取り組まれているものもあるけれど、構造としてアートは創造者に想いがないと、そもそも生まれないものなんじゃないかなと。







 

 そうですね。想いを表現するにもプロセスは泥臭いものです。人に見せて自分の至らない点やフィードバックを生かしてまた描いていく。常に完成したものを出してはいるんですけど、常に未完成というか。その不完全性がアートの魅力の一つなのかなって。



 

不完全性な中で、自分がどう変わっていけるか。そういう点はビジネスでも最近強く言われていることですね。変化にどう対応できるということだと思うんです。人生100年時代で、75歳まで健康に働けますって時代に未来がどうなるかなんて想像もつかない。そんな中で目標値を立てて、未来を定めていくのには限界がある。だから、何が一番重要になるかって、やっぱり想いだと考えています。






最近では「意味のイノベーション」という言葉が出てきています。ゴールを設定して、そこにたどり着く手段を考えるより、自分にとってそれがどのような意味を持っているかという、主観からサービスを創出していこうという思考法ですね。例えばパソコン1つをとっても、それを”プレゼンができる装置”という人もいれば、”ユーチューバーにしてくれるツール”と意味付けしている人もいると思います。価値を生み出すデザインプロセスがすごく重要視されてきていて、これってアートに近づいてきていると思うんです。

 

デザインの領域でも、これまでのユーザーへのヒアリングから始まる客観思考に対し、想いから始まる主観思考が混ざり合い始めているような気がします。良い意味で、アートとデザインの境界線がおぼろげになってきている。人間は70億人もいて、日本は1億人以上同じ文化背景を持っているんだから、自分が良いと感じた意味に共感する人は 1万人くらいはいるはず。それだけ潜在顧客がいれば、普通にサービスになりますよね。そのくらいの感覚で、ビジネスを作っていっていいんじゃないかと僕は思ってます。




 アートはマーケティングしない。先ほど大竹さんと田中さんが仰っていたことに通じてきますね。自分が意味があると思うことに従うのがアートであり、アーティストですね。それをビジネスに生かすのであれば、アートで実験させておけばいいと思いますね。それで、デザインとかビジネスが動き出せばいい。これからは、壮大な実験場としてのアートがあるといいんじゃないかな。

 

誰もがアーティストになりうる「社会彫刻」の理念
住みたい世界は個人も創造できる

 

「個の想いや意味を追求する」そういうことをうまく言い表す言葉を探した時に、現代美術家ヨーゼフ・ボイスの「あらゆる人間は自らの創造性によって社会の幸福に寄与しうる、すなわち、誰でも未来に向けて社会を彫刻しうるし、しなければならない」という考え方、いわゆる「社会彫刻」という思想がしっくりきたんです。つまり、全ての人間が社会という作品を作っていけるアーティストであると言える。

 


現代美術を作った代表的な三人がいて、マルセル・デュシャン、アンディ・ウォーホル、ヨーゼフ・ボイス。現代美術は、単なる物質としての美術じゃなくて社会とどうコミットするかを考える手段。森美術館でやっていた「カタストロフと美術のちから展」(~2019/1/20)を見てみればよくわかりますが、綺麗なものだけが美術じゃないんですよね。何が起こるのかわからない社会での美術がどうなるか、「社会彫刻」という言葉を持って予言したっていう意味でも重要ですよね。






 

東京で日常生活を送っていて、いきなりブラジルのことを考えたりしないじゃないですか。世界とコネクトしてる感覚って日常生活において持ちにくいなと思って。そういうことを感じられるきっかけってアートを見た時なんですよね。現代アートをみると社会問題についての問題提起を感じるし、大竹さんの作品をみると東洋思想を感じる。普段自分と合致してる世界と違う点と繋げてくれるものとしてもアートは存在していています。大竹さん自身、アーティストとして社会に対して強く想いを込めているものってありますか?

 


あえて積極的に「歴史に名を残そう」みたいな気持ちはないけど、一生懸命に自分と向き合うことによって、よかったものが残っていけばいいなと思ってますね。女性だからできることもあるかなって思っています。

 

アートとビジネスの未来は予測できる?

 

最後に、アートとビジネスはどういう未来を作っていけると思いますか?

 


いろんなテクノロジーが生まれている一方で、筆一本で作るアナログな世界が根強く支持されている。美術史には、新技術が生まれてビジネスが動いて社会が変わると、人々のアートとの付き合い方も変化するという大まかな流れがある。それを考えると、現代はITやブロックチェーンなんかの大きなうねりがあるから、当然美術も変わってきます。歴史を追って人々のやって来たことを俯瞰することで、何かしらのヒントが得られると思っています。

 


ビジネスにアート、様々な領域で重要なことって、今まで人間が何をやって来たかということを改めて知り、考える こと。そこにどういう想いがあって、どういう条件で生まれて来たのかを知ることで、じゃあ自分たちは次に何を生みだしたいのかを考えていけるのではないでしょうか。

本日はありがとうございました!

 

いかがだったでしょうか?

自分の思いを軸に、行動を起こしていくアートの思想。これからは、アーティストのような起業家、起業家のようなアーティストがどんどん生まれる時代になるのかも。

 

現状を嘆くばかりじゃなくて、住みたい社会をみんなが自ら表現していく。アートの思考がつくる、そんなポジティブな未来への妄想が膨らみました。

視覚的な美しさだけでなく、豊かな生き方も教えてくれるアート。くぅ~、面白い!!


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