【アートで旅する Vol.02】 ブラジル人ハーフの美大生が語る、ブラジルのグラフィティ

投稿日:(金)

アート

目次

2022.3.11.UPDATE



どうもこんにちは、光です。
以前予告していた通り、今日はブラジル(というかサンパウロ)のグラフィティアーティスト、Os Gemeos(オス・ジェメオス) を中心としたブラジルのグラフィティについて紹介したいと思います。


グラフィティとは

グラフィティとはどのようにして始まったか、どういった社会背景があるのか、案外、グラフィティについて知らない人は多いと思います。




私も知識は特にありません。笑
でも、グラフィティの街、サンパウロに住んでいた経験をもとに、今回はグラフィティについて私なりの視点を書いてみたいと思います。


もともと現代のグラフィティはアメリカを中心に広がったものです。だから、ブラジル独特の文化というわけではないのですが、アメリカと似たような貧困層と富裕層がはっきりと別れている社会構造をしたブラジルでは受け入れられやすかったのでしょう。
学校にも行っていない貧しい人にとって、街に広がる壁は素晴らしいキャンバスだということは容易に想像できます。


今こそグラフィティをストリートアートというジャンルに分けて、HIPHOPの文化を表現しているとか、ファッションにも取り入れられたりしてオシャレだねということになっていますが、それはグラフィティからひとつ離れた環境にいる人の目線だと思います。なぜなら、グラフィティは貧困や治安の悪さの象徴だからです。



「悪」のイメージ、グラフィティ

例えば、ブラジルには凄まじい勢いであちこちに無数に落書きがされています。ブラジルの多くのグラフィティはもはや一種の環境汚染です。
グラフィティは治安の悪さに比例して多くなっていきます。
治安が悪いような貧しい街並みにはグラフィティがたくさんあるし、治安がいいところにはグラフィティはほとんどありません。
だから、多くの人にとってグラフィティは悪いイメージが持たれているのです。



私は、ブラジルに住んでいた頃、本当に街じゅうにある落書きが嫌いでした。せっかくの美しい街並みも、グラフィティのせいで台無しだなぁと思っていました。
だから、日本のようにグラフィティアーティストのマナーが良くて街の景観がちゃんと美しく守られているのは素晴らしいなあとも思っていました。


このように、生活の視点からグラフィティを見つめてみると、グラフィティとは不良を象徴したようなもので、決して美しいものではないのです。



でも、実は奥深い

かといって、そう簡単に悪いものだとくくれる話でもありません。


私はずっとグラフィティが好きじゃなかったのですが、母と出かけたある時、街の壁に美しい絵が描かれていることに気づきました。その絵の周りには落書きみたいなグラフィティがたくさん描かれていたのですが、美しい絵の上に落書きをしている人はいなかったのです。
母親に聞いたら、「そりゃあ美しい絵の上に落書きをする人はいないでしょ。彼らにもモラルはあるのよ」と言われました。

 


私はそれを聞いて、グラフィティを描く人は、どこかのただの不良なんじゃなくて、不良のアーティストなんだって気づきました。
モネやピカソがブルジョワの高尚な絵画だとすると、街の壁に描かれた美しい絵は、貧乏人の高尚な絵なのです。
その時からグラフィティは奥深いなあと思うようになりました。



ブラジルの社会を克明に表現している

考えてみると、グラフィティはオシャレみたいになっているけど、ストリートの現状を克明に表現していることがわかります。ストリートチルドレンという言葉があるように、ブラジルの社会ではずっと家に帰らずに外で生活している人がたくさんいます。
彼らは外で生活し、マフィアとの接触や、麻薬、暴力と隣り合わせの日々を送っています。
でも彼らにとってはそれが当たり前だし、それを危険だと思うことはないのです。


私も、母親のコネクションでそういった人がたくさん集まるようなバーに行ったりしたことがありますが、あの危険と解放感が一体となった独特の雰囲気は癖になります。



ブラジルの代表的アーティスト、Os Gemeos (オス・ジェメオス)


ここまで、グラフィティはストリートだと語りました。そして貧しい人の芸術だとも語りました。けれど、実はグラフィティの名を背負って世界的に活動するアーティストもたくさんいます。
例えば Os Gemeos というグラフィティアーティスト。とても有名なグラフィティアーティストで、世界中の壁に Os Gemeos の作品があります。
Os Gemeos とは「双子」という意味です。双子で一緒に活動しています。



出典元:http://www.vancouverbiennale.com/artists/os-gemeos-2/|VANCOUVER BIENNALE


そっくりですね~。


私が初めて Os Gemeos の作品に出会ったのは、去年、ブラジルのサンパウロに遊びに行った時でした。サンパウロの美術館の外壁に、彼らの作品が描かれていたのです。


大きく描かれている彼らの作品を見て、グラフィティアーティストでもちゃんと芸術家として認められている時代なんだなぁって、思った記憶があります。
彼らの作品は、ブラジルらしい色使いで、グラフィティ特有のHIPHOPなスタイルと、 Os Gemeos にしかない繊細さが混ざり合っています。
その壁画がこちらです。クセが強くて、これを見たときはちょっと怖かったです。



出典元:https://cafeemparis.com/2015/11/02/osgemeos/ |CAFE EM PARIS



ちなみに、ブラジルでは、グラフィティを大きく分けて「落書き pixacao」「グラフィティ graffiti」「ムーラル mural」と呼び分けているそうです。
私も定義はよくわかりませんが、ちゃんとプロジェクトとして許可が降りているものを mural と呼ぶそうで、この絵は mural に入ります。


彼らがすごいのは、ストリートを芸術に変えたことです。
私は、貧乏人の高尚な絵だと表現しましたが、彼らは、それをみんなが認める大衆の絵に変化させたのです。


世界で活躍する、Os Gemeos の作品

Os Gemeos は世界的に知られていて、海外でもたくさんのオファーが来ているそうです。
海外の作品も、ストリートで育っただけに反抗精神むき出しの作品が沢山あります。
ここでいくつか紹介したいと思います。



1.Times Square, ニューヨーク

これは、Os Gemeos がNYでやった企画です。



出典元:https://www.widewalls.ch/os-gemeos-times-square-midnight-moment-parallel-connection/ | WIDEWALLS


真夜中に、Times Square のモニターを3分間ジャック、そしてブルックリンの町の壁にグラフィティを描くというものです。Times Square中に広がるなんとも言えない表情が、かなり面白いです。



2.スコットランド、ケルバーン城

こちらはスコットランドのお城に描かれたものです。


出典元:http://www.bbc.com/travel/story/20141206-see-this-crazy-castle-before-the-summer-of-2015 |BBC


ここのお城は壁にセメントが塗られており、セメントがお城をダメージしていることが判明したため、セメントを取り除く作業が行われることになりました。
お城を所有しているグラスゴー伯爵は、セメントを取り除く前に面白いことをしようということで、ブラジルから Os Gemeos を含めた数人のグラフィティアーティストを招待して絵を描かせました。
この絵を描いたことによって観光客が一気に増えたので、伯爵はセメントを取り外す作業を中止しようとしましたが、セメントによる壁の損傷が激しいということで、結局、絵ごとセメントが取り外されました。

ですので、もう見に行っても絵はありません。残念無念!



3.東京現代美術館、ネオトロピカリア展

実はOs Gemeos、2008年に日本でも展覧会をしています。


出典元:http://www.osgemeos.com.br/pt/projetos/when-lives-became-form/#!/3967|Os Gemeos



これは、東京現代美術館で27人のブラジル人アーティストの作品を展示して、ブラジルの日本人移民100周年を記念したものです。
ネットで調べても、ほとんど情報が載っていなくて、探すのが大変でした。こんなにも知られていなくていいのか!?と思うほどです。
でも日本のアート界とブラジルのアート界は反りが合わなそうな気もします。笑



4.フランス、地下トンネルに描かれた作品

最後に紹介するのは、この作品です。
これは、フランスの Palais de Tokyo の地下トンネルで制作された作品です。




出典元:https://www.select.art.br/obras-na-escuridao/|select



Palais de Tokyo は日本と関係があるのか?よくわからないし、紛らわしいです。

しかし、非常に素敵な作品です。今まで見てきた Os Gemeos の作品とは一味違います。それもそのはず、フランスのJRというフォトグラファーとのコラボ作品です。
実はこれ、直接見ることができません。彼らが制作した Palais de Tokyo の地下トンネルは出入りができないからです。

とんがっていますねぇ。

そんなことしちゃうんですねぇ。



Os Gemeos の公式Webサイト

ということで、素敵な作品ばかりのOs Gemeos。
Os Gemeos のオフィシャルwebサイト(ポルトガル語)があるので、紹介しておきます。
よかったら覗いてみてください。


Os Gemeos ホームページ


もちろん、ブラジルには他にも素晴らしいグラフィティアーティストはたくさんいます。こういった、本気のアーティストによって、ブラジルのグラフィティはどんどん発展していっているんだなぁと思います。



グラフィティ界で起きた事件

このように、ブラジルには世界で活躍するグラフィティアーティストも増え、グラフィティはどんどん認められるようになっています。


ところが去年、素晴らしいアートの数々が、グレーで塗りつぶされるという事件が起きました。

グラフィティの名所、Avenida 23 de Maio (アヴェニダ・ヴィンチ エ トレス・デ・マイオ)という通りが、景観保護法の施工によって灰色に塗りつぶされてしまったのです。


出典元:https://noticias.uol.com.br/cotidiano/ultimas-noticias/2017/01/28/mural-de-kobra-na-23-de-maio-e-completamente-apagado-pela-prefeitura-de-sp.htm |VOL



この通りには、200人以上ものアーティストが 15,000m2 に渡り制作した大作の数々が並んでいましたが、ほとんど消されてしまいました。
マスメディアや世論からも、「景観保護法どころか、美しい作品を消して街を醜くした」といった批判の声があまたに聞こえました。
やっとのこと、一部の塗り直しが許可されましたが、この事件によって、ブラジルがアートに対し全くの敬意を払っていないことが露呈しました。


グラフフィティは大半が持ち主に無断で描かれているし、私も昔はグラフィティが嫌いだったのでしょうがないと思うことはあります。でも、市民の反感を買うような方法で策を進めるよりも、グラフィティが盛んなことをうまく利用して、アーティストを育てるべきなのに、と思います。


悲しいことだけど、ブラジルでは未だにストリートで活動するような、社会的弱者に対する圧力がまだまだ強いんだなということを、この時に感じました。


ブラジルのグラフィティアート 行くならここ!

さて、今まで長々とブラジルのストリートアートやグラフィティについて長々と述べてきました。


グラフィティは貧困や治安の悪さを象徴していると言い切ったのですが、実はサンパウロに観光地として名が売れるほどグラフィティで溢れかえっている場所が色々とあります。非常に美しいので、私が知っている場所をいくつか紹介したいと思います。



Vila Madalena(ヴィラ・マダレナ)

サンパウロの中で、非常に有名なところです。
いい感じのバーもあって、治安も良い方なので人気のスポットです。お金持ちの人もよく飲みに行くみたいです。私は、行きたいと思って結局一度も行ってない場所です。


出典元:http://fotostrasse.com/vila-madalena/#.WrNtCZPFJE4 |FOTOSTRASSE




Beco do Batman(ベコ・ド・バットマン)

Beco do Batman は Vila Madalena のさらに奥まった場所を言います。ここは、どこまでもグラフィティが続く、グラフィティの聖地のようなところです。本当に圧巻!ブラジルにいた時、タクシーのドライバーに勧められたのですが、ここも結局行かずじまいになりました。


出典元:http://gravuracontemporanea.com.br/index.php/2018/01/23/40-artistas-da-street-art-voce-seguir-nas-redes-sociais/ |GRAVURA CONTEMPORANEA



Avenida 23 de Maio(アヴェニダ・ヴィンチ エ トレス・デ・マイオ)

先ほど紹介した Avenida 23 de Maio もぜひ見に行ってみて欲しいです。ここには、Os Gemeos と仲間達(どれも素晴らしいアーティスト)が、作品を消された事件の後に描きなおした大作があります。消されてもまた描き直すその根性がすごいです。
今はだいぶ消されてしまったので、多分、前ほど作品が溢れかえっている訳ではありませんが、その現場を見て見るのもいいと思います。
大通りなので、車の窓から眺めるのがベストかと思います。


出典元:http://jpress.jornalismojunior.com.br/2015/04/hip-hop-cultura-transformacao/ |J.press



いかがでしたか?
普段はグラフィティアートに触れる人は少ないかと思いますが、意外と面白い世界があるということを知ってもらえたら嬉しいです。ありがとうございまいた。


 



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