「武士と印刷」@印刷博物館。勇猛果敢な武士たちのインテリな一面
投稿日:(火)
目次
今週末に行きたい展覧会
あけましておめでとうございます!
WASABIをご覧のみなさん、はじめまして、アートテラーのとに~です。
「つまらない…」「敷居が高い…」「難解…」と、一般の方には敬遠されてしまいがちな「美術の世界」。 アートテラーとは、そんなイメージを払拭すべく、「美術って面白い!」と感じていただけるようなトークをする専門職です。
これまでに横浜美術館や、森美術館、DIC川村記念美術館などで公式トークガイドイベントを担当し、『芸術新潮』にて「ちくちく美術部」を連載中。
WASABIでも、美術展の情報を中心に、独自の視線で愉快にアートを語っていきたいと思います。 どうぞよろしくお願いします!
さて早速ですが、今週末に行きたい展覧会のご紹介です。 現在、印刷博物館で開催されているのは、“武士と印刷”という展覧会。
会期は15日まで・・・ということで、ギリギリの滑り込みなのですが、面白いのでご紹介します。
印刷された武士、印刷させた武士
武士と印刷。
一生で一度耳にする機会があるかどうかの、実にキャッチーでインパクトのあるフレーズです。
展覧会は2部構成。
まず前半では、印刷された武士・・・すなわち、武将や赤穂義士など、武士を描いた歌川国芳の浮世絵の数々が展示されています。
※画像はイメージです
前半に関しては、普通に浮世絵展、普通に武者絵展、普通に良い摺りの状態の浮世絵が観られる、普通に良い国芳展でした。浮世絵好きの方は、要チェックです。
一つだけ付け加えるならば、浮世絵をアクリル板に挟んで、壁に設置するという展示の仕方はナイスでした。 そのおかげで、超至近距離で浮世絵を楽しむことが出来ました。
ということは、「普通に」 ではなく、「かなり」 良い国芳展だったと言えそうです。 浮世絵好きの方は、要チェックです。
国芳の浮世絵で観客の心をグッと掴んでおいて、後半で、いよいよ今回の展覧会の本題、核心へ。
「印刷された武士」をみる前半から、「印刷させた武士」を知る後半へと移っていきます。
勇猛果敢な武士の意外な側面
さて、後半です。
水戸黄門こと徳川光圀が編纂し、死後も水戸藩の事業として継続されやっと明治時代に完成したという大作の歴史書・『大日本史』 や、豊前中津藩主・奥平昌高の命により編集された日本語とオランダ語の辞書 『蘭語訳撰』 など、戦国から幕末まで、約70人の武士が刷らせた約160点(!)の印刷物が紹介されています。
印刷物がズラリと並べられた光景は、圧巻。
もはや一種のインスタレーション作品のようでした。
武士って結構、印刷物を出版していたのですね。勇ましく戦っているイメージしかなかったので、かなり意外な側面でした。
ただ、紹介されていた約70人のほとんどが平和な江戸時代を生きた武士。
冷静に考えてみると、それはまぁ、印刷もするでしょうなぁ、他にこれと言ってすることもなさそうだし、という気がしてきました。
そう言う意味では、
「えっ、武士と印刷?!」
と素直に驚けたのは、徳川家康や今川義元、豊臣秀頼といった戦国武将たちが手掛けた印刷物だけでした。
どの時代にもマニアはいた
とは言え、江戸の武士が手掛けた印刷物の中には、純粋に内容に驚かされたものがいくつかありました。
例えば、下総古河藩の第4代藩主にして、江戸幕府の老中首座も務めた土井利位(どいとしつら)の 『雪華図説』 。
「雪の殿様」 の異名を持つ土井利位が、雪の結晶を観察し続けること約20年の集大成として制作した私家版の図鑑。主に武家や公家への贈答用として用いられたのだとか。
ちなみに、この8年後に、『続雪華図説』 も刊行したのだそうな。
他にも、古銭集めが高じて、古銭に関する本を何冊も出版した福知山藩8代藩主・朽木昌綱や、『日本書紀』 の研究に没頭し、その関連本を何冊も出版した黒羽藩11代藩主・大関増業など、会場にはマニアな殿様がちらほら。
いつの時代にもマニアがいて、いつの時代のマニアも、そのマニアックな知識を出版したくなるものなのですね。
- 場所
- 印刷博物館
- 会期
- 2017年1月15日(日)まで
- 休館日
- 毎月曜日
- 開館時間
- 10:00~18:00
- 観覧料
- 一般500円、大学生300円、高校生・中学生200円
- 詳細
- 印刷博物館HP
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