わくわくに溢れた世界で【アーティストの制作現場 Vol.06】

by WASABI運営事務局

2021.07.01

アーティストの素顔

わくわくに溢れた世界で
【アーティストの制作現場 Vol.06】

画家 川西郁美

第6回を迎えた【アーティストの制作現場】シリーズ。

今回は画家の川西郁美さんにご登場いただきます。


川西郁美さんの作品といえばお花の絵。伸びやかな筆づかいと、愛らしい色たちが特徴です。


でも実は、自身の”欠点”や”個性”に悩んでいたこともあったとか。


どのように今の画風に至ったのか。

道のりを覗かせてもらいましょう。


それでは最後までお楽しみください。


(川西さんの作品一覧はこちらから)

(過去の【アーティストの制作現場】シリーズはこちらから)

わくわくに溢れた世界で

はじめまして。アーティストの川西郁美です。


人生初のコラムですので、みなさまに自己紹介をしながら、どんなことを考えて絵を描いているのか、なぜ絵を描いているのかなど、お伝えしていきたいなと思います。


大好きなヴァンジ彫刻庭園美術館にて。


画家になったきっかけ

わたしは香川県生まれ、広島県育ちで、大学進学のために愛知に来ました。


絵を描くのは昔から得意だったけど、本が大好きだったので、初めは漫画家や小説家を目指していました。


漫画コースのある専門学校を志望していましたが、父親に美大を薦められたのをきっかけに、美術の世界に入っていくことになりました。


初めは、「漫画的な絵しか描いたことないし、無理なのでは?」と思いました。

そこで恐る恐る高校の美術の先生に相談してみたら、あっさり美大の予備校を紹介されて通う事に。


美大といえば、石膏デッサンです。見たこともない木炭の使い方を教わり、描いたこともない写実的な絵に初めて挑戦したわけですが、とりあえず見たまま描いていったら、どう描けばいいか知っているかのように筆が進み、思いのほか上手に描けました。自分でも驚きました。


実は漫画家や小説家に憧れてはいましたが、ストーリーは全然思い浮かばなくて、最後まで書けたこともありませんでした。


それに比べると、一枚の絵を描くことは、わたしにとって何も障害がないという感じでした。

真っ白なキャンバスに自由に描く課題などもありましたが、これもいくらでも描けました。

ストーリーづくりでは詰まった排水管のようだった想像力が、溢れ出るようでした。

『For you No.5』


「物語をつくるより、1枚の絵を描く方が得意なのかもしれない」


そう気がついて、方向転換。

画家になることにしたのでした。


今はこんな感じで、アトリエで楽しく絵を描いています。


アトリエ風景

欠点が個性になった瞬間

「川西さんが、どうしたら作品のテーマを見つけられるか、僕も悩んだんですけどねぇ…」


無事入学できた美大では、様々な作品を作ってきました。そんな大学院の卒展の講評会で、大勢の人の前で作品の説明をした後、一人の教授にそう言われたのです。


そのとき描いていた絵も、今のようなお花の絵でした。

たしかに、何もないのです…現代美術的なコンセプトとか、強く世の中に訴えたいメッセージとか、何もない…。苦手です、そういうことを考えてつくるのは。

自分なりに模索はしてきました。宇宙を描いたりとか、紙粘土をパネルに貼りつけてその上に描いたりとか。現代美術っぽい絵を目指したこともありました。


パネルに紙粘土を貼り付けた作品。2007年頃のアナログなポートフォリオ。


でも本当は、ただ色の組み合わせを考えたり、それを自由に画面に走らせたりしたいのです。

歌うように、踊るように、ミュージカルのように。

わくわくする気持ちのままに。


だから最終的にお花を描き始めたときに、これだと思いました。


カラフルな色彩、生き生きと伸びる姿。

でもあっという間に枯れてしまう儚さ、もろさ。

とくにテーマも見つけられない、ただ色と戯れていたいだけのお気楽なわたしと、風に揺れて美しく咲き誇り枯れていくお花は、似ているような気がしました。

それだけでは、ダメなのでしょうか?


その教授の言葉を聞いたとき、大学院まで進んで絵を描いてきたことが、全て否定されたようでショックを受けました。


でもそのとき、ある他の先生が驚いて言いました。


「えっ?何もないのがいいんじゃないですか。」


このときの先生の言葉は、ずっと忘れられません。


その言葉を聞いて、「何もない」というのがわたしの欠点であり、けれども大切な個性のように感じられたからです。

作品だけじゃなく、そのままの自分でいいんだと認めてもらえたような気がしました。


欠点も大切なわたしの個性。

今では自信を持って、自由に咲くお花の絵を描きながら、わくわくする色彩の世界を追求し続けています。


そうすることで、伝えられたらいいなとも思っています。

そのままでいいと言われたときの、解放された感じ、大丈夫なんだというあの安心感や、そう感じられたときに見えてきた、世界は美しいものでいっぱいで、わくわくするような場所なんだという喜びを。



お庭のお花。


楽しい連鎖が続く、きっかけの一つに

さて、本が好きだと書きましたが、一番好きなのが『赤毛のアン』です。

アンが将来の夢を語るシーンがあります。


「あたしは人生の美しさを増したいと思うの。……自分がこの世に生きているために、ほかの人たちが、いっそうたのしく、暮らせるというようにしたいの……どんなに小さな喜びでも幸福な思いでも、もしあたしがいなかったら味わえなかったろうというものを世の中へ贈りたいの」


(『アンの青春』より)


『赤毛のアン』

わたしにもそんなことができたら、どんなに素敵だろうと思いました。


ときどき、「私も描いてみたくなった」という感想をいただきますが、それを聞くと嬉しくなります。

この世界に楽しみをひとつ、贈ることができたということですよね。


そして、それは連鎖していくのではないかと思っています。

わたしが誰かが作った小説や漫画や映画に救われてきたように、受け取った楽しみをわたしから誰かへ渡すことができたなら、またそこから誰かへと続いていくと思うのです。


そんなきっかけの一つになれたら、とても素敵です。


『桃と空』

『桃と空』の写真を撮っているところ。

さいごに

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

どんなことを考えて絵を描いているのか、なぜ絵を描いているのか。

わたしの世界観の核となる部分のエピソードを、お話させていただきました。


これからも、わくわくする気持ちを大事にして、それが作品から感じ取れるような、力のある絵を描いていきたいです。


展示風景。


ところで、3年ほど前から英語の勉強をしています。


その頃ハマった本を原文で読みたいというオタクな理由からですが、今後は海外に向けても作品を発信していきたいです。


そう考えると、わくわくするので。




(過去の【アーティストの制作現場】シリーズはこちらから)

ARTIST DATA

 

川西郁美 Ikumi Kawanishi

名古屋芸術大学大学院を卒業後、油彩・水彩・アクリルなどでカラフルなお花の絵や抽象画を描いています。

作品一覧はこちらから