夢に「遅すぎる」なんてない【アーティスト・和佳香インタビュー②】花に描き込む癒しと情熱

投稿日:9時間前に更新

夢に「遅すぎる」なんてない【アーティスト・和佳香インタビュー②】花に描き込む癒しと情熱

目次


草花へのあたたかな眼差しにあふれた、アーティスト・和佳香(わかこ)さんの作品。

観る環境や距離、そして鑑賞者によってさまざまに表情を変えるその画面には、癒しと同時に、確かな表現技法に裏打ちされた新鮮な驚きがあります。

今回は、和佳香さんのご自宅兼アトリエへ。独自の制作プロセスや作品に込めた記憶の物語、そして大好きなフランスを訪れたエピソードなど、貴重なお話をたっぷり伺いました。


聞き手・構成:WASABI編集部(シナモリ、JOJI YAMADA)

和佳香とは

紹介・経歴はこちら

和佳香(わかこ)は、東京都出身・在住のアーティスト。
天然鉱物や水彩絵具を組み合わせた技法を用い、花や植物を中心に表現している。

【略歴】
横浜美術大学グラフィックデザイン 卒業
バンタンデザイン研究所イラストレーション 卒業
セツ・モード・セミナー 卒業

2023年|第49回東京展 出展
2025–2026年|個展2回・グループ展2回開催
2026年|BECK’S COFFEE SHOP 丸の内南口にて作品展示中

作品制作について

制作中の作品

-これまでに描かれた作品の中で、特に気に入っているものはありますか?

和佳香:お気に入りと言えば…私は同じモチーフを時間や季節を変えて描くスタイルがすごく好きで。モネも『睡蓮』や『積み藁』のように連作を描くのが好きだったみたいで、私とすごく似ているなと思うんです。

-ルーアン大聖堂の連作もありましたよね。何枚も同じ場所を描いていて。

和佳香:はい。でも、あれって一枚一枚全部色が違うから、「私はこの朝靄の感じが好きだな」とか、観る人の好みも人それぞれで面白いですよね。

私も、あるフラワーフィールドの景色をもとに、自分の感情や季節のニュアンスを変えて3枚の連作を作りました。それが自分の中では一番の力作ですね。

遠くから見ると、ただの「緑色の絵」なんです。お友達が写真に撮ってくれた展示風景を見ても、空間にグリーンの窓があるかのように調和していて、遠くから主張するようなインパクトはありません。

でも、近寄ってみると「あ、実は中にいろんな色や筆跡が隠れているんだな」と気付く。その「近くで見て初めて発見がある」というバランスが、まさに狙い通りに表現できたなと思っています。

BECK’S COFFEE SHOPでの作品展示風景
BECK’S COFFEE SHOPでの作品展示風景

山田:作品が一発で完成する、ということはあまりないのですか?

和佳香:そうですね。一般的な水彩画であれば、紙の上の綺麗な滲みを活かして一発勝負で仕上げるのが普通です。でも私の場合は、水彩絵具を使いながら、何度も重ねたり消したりする油絵のようなアプローチをしていて。

特に私が使っている天然石の絵具は、一般的なアクリル絵具などのように大容量のチューブで使えるものではなく、とても貴重なものなんです。それを塗ったそばから水でザーッと洗い流して消しちゃうなんて、本来の使い方からしたらすごくもったいないし、本当に贅沢なこと(笑)。

だけど、「絵具代のコストを取るのか、自分が100%納得できる仕上がりを取るのか」と言われたら、私は絶対に後者を取りたいんです。あえてその贅沢な試行錯誤を重ねることで、私にしか描けない画面を作っています。

-そうして妥協せずに完成したものがお客様に届いて、長い間その方の生活空間の一部になっていくのですね。

和佳香:はい。個展を開いたとき、観に来てくれた方から「ここはどうやって塗ったんですか?」と質問をいただいてお話しすると、「裏側を聞いて見方が変わりました」って仰ってくれるんです。だから、こういうインタビューの場などで制作過程をお伝えしていくことも、大切だなと思います。

モネの連作も、本人がどんな気持ちで・どんな風に描いたのかは、現代の私たちには推測するしかありません。だからこそ、自分の言葉で裏側にある想いを伝えるべきなんだなと実感しました。

もちろん、そんな背景は知らずに、「この色が好き」「思い出の花に似ている」と、自由に感じて飾っていただけるだけでも、本当に嬉しいですけどね。

観る人それぞれの想いを大事にしたい

インタビュー中の和佳香氏

-ほかに、これまでお客様から言われて嬉しかったことや、印象に残っている言葉はありますか?

和佳香:「絵にお人柄が出ていますね」と言っていたいただけたことが、一番嬉しかったですね。お話ししていると色々と言葉をいただくのですが、やっぱりそれが深く心に残っています。

あとは、「子どもの頃、四つ葉のクローバーを夢中で探していた時間を思い出しました」「懐かしい田舎のふるさとを思い出しました」と仰ってくれたり。観た人の中にある、それぞれの記憶や思い出を呼び起こせているんだなと感じます。

なのでどんな風に観てもらってもよくて、何か特定のお花を描いたとしても「私にはコスモスに見えます」というのでもいいですし。

壁に掛かった絵を日々眺める中で、自分の好きだった場所や大切な記憶をふっと思い出してもらえるような、そんな絵が描けたらいいなと思っています。

-観る方一人ひとりの記憶を想起させる力があるというのが、素晴らしいですよね。同じ花をモチーフにしていても、全員が同じように感じるとは限りませんし。

和佳香:そうですね。例えば、花瓶にバラの花が写実的に生けてある絵だと、誰が見ても「バラの絵」という風にしか受け取れないじゃないですか。もし自分が部屋に飾る立場だったら、それだとちょっと飽きちゃうかもしれないなと思って。

「これはバラよ」「ひまわりよ」と絵の側から強く主張されすぎると、ちょっとお部屋に置きづらくなってしまうこともありますよね(笑)。

「夏はいいけれど、冬になったからひまわりの絵は一度しまっておこうかな」となってしまったり。もちろん、季節に合わせて掛け替えるのも素敵ですが、私は大好きな作品なら1年中ずっと置いておきたいタイプなので、いつでも空間に寄り添ってくれるような絵がいいなと思っています。

フランスで画家たちの人生を感じる

ユトリロのアトリエを訪れた際の様子
ユトリロのアトリエを訪れた際の様子

-和佳香さんはフランスによく行かれるということですが、どういった場所がお好きなのですか?

和佳香:観光名所を巡るというよりは、画家のアトリエに行きたいんですよ。画家が実際に暮らし、絵を描いていた場所を訪れるのが昔からすごく好きなんです。フランスには、そういった画家のアトリエや家がたくさん残されているんですよね。

これまでにも、モネの家やユトリロのアトリエ、彫刻家のジャコメッティ、ドラクロワの家などに行きました。画家だけじゃなくて、デザイナーのイヴ・サンローランのアトリエや、文豪のバルザックの家にも足を運んだことがあります。

-素敵ですね。当時の空気感がそのまま残っているのですか?

和佳香:そうなんです。画家なら絵具やキャンバスといった仕事道具がそのまま残っていますし、サンローランのアトリエにはデザインの資料や洋服のパターン、使っていた机が当時のまま置かれています。

「彼らはこういう場所で生活をして、日々暮らしながら作品を生み出していたんだな」という背景を肌で感じるのが、本当に好きで。だから、これからもそういう場所をもっと訪れていきたいなと思っています。

-ちなみに、ユトリロのアトリエはどのような雰囲気だったのでしょうか?

和佳香:ユトリロはモンマルトルという画家の集まる丘の上のエリアにいたのですが、彼のお母さんも画家(シュザンヌ・ヴァラドン)だったんですね。そこはお母さんとユトリロが一緒に使っていた、自宅兼アトリエのような場所です。

モネの家もそうですが、カチカチになった絵の具や、すっかり色が変わってしまった筆なんかが、当時のまま置いてあったりするんですよ。

ジャコメッティのアトリエも凄かったですね。吸いかけのタバコがそのまま残っていましたし、机の周りにちょっと落書きしたような絵とか、彼のプライベートな日常まで見えちゃうような生々しさがあって。

中には入れないのですが、外からくまなく観察して、制作風景を想像したりして。そういう時間がとても楽しいです。

モネの家を訪れた際の記念写真
和佳香さんがモネの家(ジヴェルニー)を訪れた際の記念写真

-巨匠たちの生きていた気配をその場で感じられるのは、何にも代えがたい体験ですね。

和佳香:ゴッホが最後に過ごした療養院や、彼が下宿していた部屋も見てきました。ゴッホの絵によく、椅子だけがポツンと描かれた作品がありますよね。

あの部屋は写真撮影が禁止されているので、現地の方のお話を聞きながら目に焼き付けてきたのですが、本当に小さな窓が一つあるだけの狭いお部屋で。そこにあの椅子があったんだな、というのを確認してきました。

-うらやましいです。ゴッホは様々な土地を巡りながら、絵を描き続けましたよね。

和佳香:まさにそうですね。彼が木の根っこを描いた場所や、カラスが飛んでいる麦畑を描いた場所、地元の子供たちに「変な奴だ」って石を投げられた場所…色んな景色を、この目で見てきました。

もう少し南の方へ足を延ばすと、マティスが手掛けたロザリオ礼拝堂もあります。建物の中に差し込む日の光が、時間の経過とともに美しい演出をしてくれるんです。

ニースには、ピカソの陶芸作品を集めた美術館もあります。当時の雰囲気を残した部屋に、作品が雑多に集められている感じがすごくいいんです。

そういう「画家の生きたアトリエを五感で味わうこと」が、私がフランスへ行く大きな目的ですね。

今後やっていきたいこと

制作風景

-今後、新しく描いてみたいテーマや、挑戦してみたいことなどはありますか?

和佳香:病院やケアハウスのような「ホスピタリティのある施設や場所」に絵を飾りたいなという想いがあります。

以前、お客様の中で「シニアホームのお部屋に飾りたい」と仰って、作品を迎えてくださった方がいたんです。その方はお花が大好きで、絵を眺めながら「昔通っていた学校や風景、色んなことを思い出すわ」と本当に喜んでくださって。

病院などの施設にいても、絵を通して自分の大好きな記憶を思い出せるというのは、すごくその方を元気づけられたんじゃないかなと感じたんです。だからこそ、今後はそういった空間にもっと届けていきたいなと思っています。

医療や福祉の施設にいる方々は、どうしても屋内で過ごす時間が長くなりますから。作品を通して自然の息吹や空気感を感じられる絵というのは、これからもすごく求められていくと思います。

若い方が好む絵と、ご年配の方が観ていて落ち着く絵ってやっぱり少し違うんですよね。どんな解釈にも受け取れて、毎日眺めていても疲れない雰囲気。そんな優しさが届けられるといいなと感じます。

読者へのメッセージ

-和佳香さんは50代で画家としてデビューされていますが、年月を経て夢を叶えられた姿に励まされたり、影響を受けたというメッセージが多いそうですね。

和佳香:はい。私個人のお話をすると、小さい頃からずっと「画家になりたい」「絵を描く仕事がしたい」という夢を持っていたんです。その夢をどうしても諦めたくなくて、去年から実際に個展を開いて本格的に挑戦し始めました。

活動を始めてから、SNSで「新しくこういう挑戦を始めました」と発信したことがあったんです。そうしたら、「私も50代で着付けを始めました」「私はピアノを始めました」といったコメントが、もの凄い数届いてびっくりしたんですよ。

皆さん、自分が新しく何かを始めたということ、年齢に関係なくチャレンジしているよということを、誰かに聞いてほしかったんだなと感じました。同じように挑戦している私を見て、共感してくださったのかもしれません。

世間ではよく「もうこの年齢だから遅い」なんて言う人もいますし、諦めてしまう環境があるのも事実です。だけど、私は「遅すぎるなんてことは絶対にあり得ない」と思っています。

やりたいという気持ちが湧き上がるタイミングなんて、人それぞれ違って当たり前。その衝動が来た時に、やれる環境があるなら絶対にやるべきです。

-自分の気持ちに素直に行動することが大切なんですね。

和佳香:やらないと絶対に後悔しますからね。それに、面白いことに若い頃に「やりたい」と思って取り組むのと、この年齢になってから取り組むのとでは、注げる情熱の深さが全然違うんですよ。

「学生の時にこの情熱があればもっと凄かったのに」って思うくらい、今の方が気持ちが強いんです。でも、この深みや情熱は、色んな経験を重ねてきた「今」だからこそ出るものなんですよね。

会社のためでも、子どものためでもなく、誰に言われたわけでもない。ただ「自分がやりたいからやる」という純粋な気持ちだけだからこそ、ここまで情熱を注げるんだと思います。 だから、私はいつも「今が一番若い」と思って活動しています。

「ART」と象られた指輪
「ART」と象られた指輪は、マルタ島の伝統工芸である銀細工。娘さんからの贈り物とのこと。

山田:そのお話を伺っていると、歳を重ねていくことがすごく楽しみに思えてきますね。

和佳香:ありがとうございます。絵画教室の子どもたちにも、私がこうして現役の画家として必死に頑張っている姿を見せることで、何か良い刺激になったら嬉しいなと思っています。

私が個展をすると言うと、生徒たちがたくさん見に来てくれるんですよ。中には「僕も大きくなったら画家になるんだ!」と言ってくれる子もいました。身近な大人が、こんな風に自由にアートを楽しんで生きているんだという姿を、肌で感じてもらえたらいいですね。

以前、親御さんが「今は子育てで毎日すごく忙しいけれど、一段落したら私はどう生きていったらいいんだろう」と不安を抱えていらっしゃって。私は、「何でもいいから自分の好きなことをもう一度やってみればいい」とお伝えしました。

私はたまたま小さい頃から「絵を描くこと」でしたが、楽器でも旅行でも何でもいいんです。誰しもが、小さい頃に大好きだったものを必ず一つは持っているはずですから。それをもう一回手繰り寄せてやってみるだけで、人生のその先がすごく楽になるし、楽しくなると思います。

着物からリメイクされたハンドバッグを描いた作品
祖母の着物からリメイクされたハンドバッグ。「大切なものを絵に描くことで、改めて作品として残せることが楽しい」と和佳香さん。

和佳香:私の場合は、娘が大きくなるまでずっと絵画教室の運営に全力を注いできたので、毎日カリキュラムを考えたり子供たちと向き合ったりするのに必死で、その先のことを深く考える余裕はありませんでした。

ただ、生徒が来てくれる以上はずっと続けていくんだろうなと思っていましたし、これまでの人生で絵から離れた時期というのは一度もありませんでした。

今は少し教室の規模を小さくして、自分の制作時間をしっかりと取れるように環境を整えたのですが、ベースにある「絵と共に生きる」という姿勢はずっと変わっていません。

-和佳香さんのように「自分が楽しいから描く」という純粋なモチベーションで作られた作品だからこそ、観る人の心にまっすぐ伝わり、多くのファンが生まれるのだなと実感しました。

和佳香:私はコンクールで賞を取るためや、名誉のために描いているわけではありません。結局、その絵を好きになるかどうかは、観る人それぞれの心にかかっています。

世の中には「有名な先生の絵だから」という理由だけで見る方もいるかもしれませんが、実際に絵を求める多くの方とお話ししてみると、国籍も年齢も関係なく、パッと見た瞬間に「あ、これ!」と心が動いた作品を迎えられているんですよね。

-確かに、アート作品を購入される方の多くは、作品そのものやアーティストの生き方に共感して選ばれています。今回のインタビューを通して、和佳香さんのそうした熱い想いや制作の背景を多くの読者に届けられることが、本当に嬉しいです。

和佳香:ありがとうございます。WASABIのサイトを見てくださる購入者の方々一人ひとりに、私の想いを直接お話しすることは難しいので、こうしてインタビューとして文字に残していただけるのは本当にありがたいことです。

-こちらこそ、素敵なお話をたくさん聴かせていただき、ありがとうございました。

和佳香 ポートレート

まとめ

ただ単に目の前の草花を描くだけではなく、その奥に眠る「大切な記憶の風景」をキャンバスへと写し取る、和佳香さん。

「ダメな時は一度リセットして流す。それも人生と同じ」と語る彼女が、試行錯誤の末に見つけた独自の表現。これまでの歩みの中で重ねてきた迷いや悩み、その経験はすべて無駄にはなりません。

何歳からでも、内なる声に従って一歩を踏み出すことはできる。和佳香さんの優しくも熱い想いが伝わってくる作品を、ぜひお部屋に迎え入れてみてください。

眺めるたびに、新しい明日へと踏み出すエネルギーを受け取れるはずです。

和佳香 作品一覧

PANSY PANSY
¥47,500
かたちの余白 かたちの余白
¥365,000
Zinnia Zinnia
¥71,500
花の気温 花の気温
¥235,000



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