何歳からでも、なりたい自分に【アーティスト・A7ICE Kanematsu Eriインタビュー】幸せへの近道は『要らない常識』からの解放

投稿日:3時間前に更新

何歳からでも、なりたい自分に【アーティスト・A7ICE Kanematsu Eriインタビュー】幸せへの近道は『要らない常識』からの解放

目次


誰かが決めた正解や、「こうあるべき」という固定観念。そんな『要らない常識』に、私たちはいつの間にか心の声を掻き消されているのかもしれません。

今回お話を伺ったのは、アーティストのA7ICE Kanematsu Eriさん。

デザイナーとして10年のキャリアを経て、心の声に再び向き合った彼女が目指すのは、アートが身近に親しまれる日常風景。

描いた画面を壊し、そこから新たな命を吹き込む「破壊と再構築」のプロセス。その大胆な表現の奥底には、鑑賞者の暮らしに寄り添う温かな眼差しが息づいています。

原体験や制作環境とともに、現代人が自分らしく、本当の意味で豊かに生きるためのヒントを聞かせていただきました。

聞き手・構成:WASABI編集部(シナモリ、JOJI YAMADA)

A7ICE Kanematsu Eriとは

紹介・経歴はこちら

A7ICE Kanematsu Eri(アリス 兼松 エリ)は、東京都在住のアーティスト。
主にアクリル・水彩を用いて絵画制作を行う。グラフィックデザインやアートディレクション、展覧会やショップの企画運営など幅広く活動中。

主な作品・活動

【略歴】
1988年|愛知県半田市生まれ
2022年|単独イベント「A7ICE in PARIS」開催(渋谷ヒカリエ)
2023年|ルーヴル美術館カルーゼル・デュ・ルーヴル作品展 出展
2024年|渋谷ヒカリエ 8/「A7ICE in PARIS Sentir Musée du Louvre」企画出展
2026年|Artexpo New York 出展

アーティスト活動にいたるまで

A7ICE Kanematsu Eri(アリス 兼松 エリ) 『変わりゆく街』
A7ICE Kanematsu Eri 『変わりゆく街』

ーまずはこれまでの経歴についてお伺いします。絵を描き始めたのが2018年からなんですね。それまではどんな事をされていたんですか?

アリス:デザイナーやディレクターをしていました。ごく普通の一般家庭で、割と箱入りで育った私は、特別に努力したこともなく、将来は専業主婦を勧められ、事あるごとに夢は叶わないものと教えられていたので、最初から画家になるのを諦めていたんです。

でもデザインやディレクションの仕事を10年近くやってみて、「すごく頑張ったら色んなことができる!」ってわかってきたときに、このまま絵を描くことも諦めてるのってなんでだろう?と思って。それで画家に挑戦しようって思ったんです。

それまでは、ずっと「来世は画家」って言ってたんですよ(笑)。

-そんな経緯があったんですね。でも、大学は美術系に進まれていますよね。

アリス:進学先は消去法なんです。「美術だけ通知表5だから、進学するなら美大かな」と。やりたくない学問を4年間学ぶのは違うな、とも思っていました。

私は受験のための画塾に行き始めたのが高校2年生ですごく遅かったので、周りには中学生とかもっと小さい時から美大を目指す人がたくさんいて。なので、その時点では圧倒的な実力の差も感じていました。

上には上がいると見せつけられた気がして、その時は美大に入ったからといって作家になる未来は想像できなくて、まずは仕事に繋がりやすいデザイナーを目指して、最初は設計事務所に就職しました。

-デザインの仕事は、クライアントの要望に応えることで喜ばれる、というイメージがあります。そこから、ご自身の表現活動をしたいと思うきっかけがあったんでしょうか?

アリス:新卒からの5年間が、とにかく激務。仕事自体は楽しくて夢中だったんですが、「この働き方を続けていたら、早死にするかも」と思って(笑)。

やりがいはあっても、人生としての豊かさが欠落しているのを感じていました。当時はそれをうまく言語化できず、「このままでいいのかな?」と思いながら働いていました。

デザイナー時代は、週7日勤務。朝8時半にデスクの下で目を覚まし、夜中の3時まで働いて、またデスクの下で眠る…という生活で月給16万円。「好きでやってるんでしょ」というスタンスだったので残業手当もありません。

でも、あの時の苦労や経験があったからこそ、今の自分があると思っています。

-それは想像を絶する大変さですね…。

アリス:3社経験したあとにフリーランスになりました。開業届を出した時は、すぐに潰れちゃったらどうしよう...という不安もありながらも、まぁやっていけなかったらまた就職すればいいんだし!と、過去5年で鍛えられたメンタルに救われました。

望んだ生活が少しずつできるようになってきて、「もっと自分の本当にやりたいことをすべきなんじゃないか」と考えるようになりました。東京という街には夢を叶えている人がたくさんいて、ライフスタイルも様々で。人と出会うたびに刺激をもらっています。

私の親友がジュエリーデザイナーをしているんですが、今つけている指輪も彼女の作品で。すごく可愛いですよね!彼女は誰がなんと言おうと「私はこれがいいと思う」と言って作り続けて、今では人気のブランドになっています。

自分が信じたものや好きな気持ちを貫いている人って本当にかっこいい。それが、私ももう一度本当の自分と向き合ってみようと思えたきっかけの一つです。

私のキャッチコピーで「好きと、生きよう。」って言葉があるんです。必ずしも仕事でなくてよくて、個人の活動であったり、趣味のものを集めたり、好きな色の服を着たり、なんでも!自分の好きという気持ちに素直に生きていくと、うまくいくと感じています。これは私が人生かけて広めていきたいメッセージです。

A7ICE Kanematsu Eriの絵画制作風景

-同じデザイナーという仕事でも色々あるんですね。

アリス:私の仕事はクライアントワークで自分の名前が表に出にくいので、どれだけ大きな企画を担当しても、「あなたはこの仕事で何をしたの?」と聞かれたときに説明が難しくて。誰かと作るものは色んな人の手柄を借りているような感じがありました。

絵なら「私がこれを作ったんだ」と胸を張って言えるし、それが自分の好きなことで成し遂げられたらきっと楽しい。絵を描くきっかけは、子どもの頃からの自分の心の声にやっと向き合えたからでした。

-現在のアーティスト活動を始められて、どのくらいになりますか?

アリス:8年くらいですね。最初は友達からのオーダーや、ライブペイントを観に来てくださった方からのご依頼から始まりました。

印象的だったのは、私が描いた犬の絵のポストカードを見て「うちの犬に似ている」と連絡をくださった方のこと。WASABIのスタッフさんが私の作品やイベントの情報をお知らせしてくれたこともきっかけになって、ご縁をいただきました。

そんな風に少しずつ、足を運んでくれたり、たまたま通りかかって展示に立ち寄ってくれたりと、興味を持ってくださる方の輪が広がっていきました。

一歩一歩、進んでこられた感じです。本当にありがたいと思っています。

絵を描いて生きていくなんて、夢みたいな話

アリス:私は地方出身で、小さい頃は古めかしい固定観念だったり、家族や学校など身近な人だけの小さなコミュニティーの中で培われた常識にすごく影響を受けていて。「いい子でいないといけない」と思い込んできたと思います。

でもそれって、いつでも・いつからでも変えられることがわかって、それを人生かけて少しずつ試している感じです!

-将来の夢が子どもの頃から決まっていた、というわけではないんですね。

アリス:全然!家に絵もなかったし、アート関連の仕事をしている人が周りに一人もいないから、なり方もわからないし、なれないものだと思い込んでいました。専門職や自営業で生計を立てられるのは一握りの成功者!みたいなイメージで。

大人になって、色んな人に会ったり、自分自身の経験が増えてきて、やっと色んな世界が見えてきました。

人の人生を知るとわくわくすることってありませんか?そこから自分に活かせるところを学んだり、勇気をもらっています。

アートを買う人は「変わり者」?

好きな作家の絵やお気に入りの小物を飾った棚

-私自身(シナモリ)は絵を購入して飾ったことがないんです。アートは好きだし、憧れはあるんですが、「まずは絵を飾れるような部屋にしなければ」と考えてしまって。

アリス:その意見、結構聞くんです!私は、欲しいものは欲しい時に買う。そこで悩まない性格だからびっくり!悩むってことは多分いらなくて、欲しいものは絶対欲しい!(笑)

もっと簡単に捉えてほしいと思います。絵を飾ることが日常とかけ離れていると感じているのかもしれません。「あの人はおしゃれだからやっているけれど、うちは普通だから」とか、無意識に線を引いてしまうのかも。もっと自由にアートを楽しめたらいいと思うんです。音楽みたいに、人々の生活に浸透したらいいのになって思います。

もし絵を飾るハードルが高いなら、場所を取らない小さな絵がおすすめ。私も自分の展示では小さいサイズの作品や、5,000円くらいの作品をなるべく並べるようにしています。買ってみようかなという気持ちを後押しする工夫は心掛けています。

私の作品を買う時に「初めて絵を買います」と言ってくれる方が多いので、アートを身近に感じてもらうきっかけになるといいなと思っています。

服やインテリアみたいな感覚でアートを手に入れてほしい

-若い世代や、これからアートを買ってみたいと思っている方におすすめのアートってありますか?

アリス:さっき言ったみたいにサイズや値段もそうなんですけど、「買ってみたい〜!」って気持ちが大事な気がしてて、そのきっかけ作りとして、私、絵巻を思いついたんですよ!

山田:絵巻??

アリス:長さ10mのロール紙に絵を描いて、それを1m3,000円で好きなところを切って買えたら面白いんじゃないかと思ったんです!これ、最近になって知ったんですが、昔有名なアーティストもやってたみたいで、「このアイディアってやっぱり需要があるんだ!」って自信にもなりました。

この値段ならTシャツを買うような気軽さがあるし、自分ならどの部分を買うかな?って考えたりして、絵を買うという行為以外の楽しみがあるし、自分で作った感も出てわくわくしてもらえるかもって思ったんです。

スタバのカスタマイズとか、PCにステッカー貼るみたいな感じっていうか。

幅が900mmで結構大きいので、ポスターくらいあるんです。ちょっと家に飾るには大きすぎるって思ったら、自分で好きなサイズに切ってもらって全然構わないです。

-切ってしまっていいんですか?斬新!

アリス:これに入れたい!って額縁を持ってきてくださった方もいて、実際に絵の上に額を置いてどこにしよう〜って一緒に考えるのがすごく楽しかったし、その体験が思い出になりました。

その額縁は、その人にとって特別な思い入れがあるお品だったので、私の絵を入れて新しいものとして生まれ変わったことが、古いものを大切にする私の信念ともマッチしてたし、とにかく色々な感動が生まれました。絵巻、いいんですよ!買い方のバリエーションが人それぞれで、毎回面白いです。

山田:楽しそう!買ってみたくなります。

-アートが欲しいという潜在的なニーズを持っている方にとっても、新しいきっかけになりますね。

アリス:もう、とりあえず買ってみてほしい!私のじゃなくていいので、なんでも、気になったものを!もっと誰でも気軽に買えたらいいと思ってます。

お気に入りの絵やアイテムが並ぶ棚

-私も、絵を買ってみたいんですが…。

アリス:買ったことないんですか?

-実は、まだないんです。山田さんは?

山田:僕は時々買うんですが、アートを家に飾ってるとか、欲しいっていうと、地元の友達にからかわれます。おしゃれぶってるって(笑)。

アリス:わかる!私も地方出身だから、昔からの友達には東京に出てきて調子に乗ってるって思ってる人いると思う(笑)。「アートはおしゃれな人の家にあるもの」みたいな先入観は、日本人の感覚なら結構あるのかも。

でも、例えば好きなアーティストのポスターとか、CDジャケットとか本とか、そういうのを買ったり飾ったりする感覚はみんなあるのに、アートはなんで含まれないんだろうって。

だからもし可愛いとか素敵とか、いいなって思ったらぜひその気持ちに素直になって、手に取ってみて!って思います。

-なるほど。そういった現状があるうえで、それでもアートを広め続けていきたいという想いもお持ちだと思うのですが、具体的にイメージされている活動や試みはありますか?

アリス:例えば、廊下やキッチンのちょっとしたスペースに絵があるだけで、ふと心が和らいだり、いい気分になれたりする。そんなふうに、日常の中で自然に取り入れてもらうのはどうかなと。

その延長として、「オーダー絵画」という形もあると思っています。ご家族や大切な人とのエピソードを伺って、それを似顔絵ではなく「抽象画」として描き起こしているんです。

-抽象画!それは面白いですね。

アリス:はい。写真や思い出の品とはまた違う、「家族の絆を象徴する新しいアイテム」のような感覚で楽しんでいただけたら嬉しいです。

以前、私の描いた絵が亡くなった愛犬に似ていると感じて連絡してくださった方がいて。思い出の形として絵という存在に需要があることを実感しました。

そういった一人ひとりの想いに寄り添ったアートなら、飾る習慣がないとか、そういった固定概念をなくしてもっと多くの人に手に取ってもらえるはず。

私の作品を必要としてくれるなら、世界でも宇宙でも色んなところへ行ってみたいです。

A7ICE Kanematsu Eriの作品

変わりゆく街 変わりゆく街
¥49,500
docomo tower docomo tower
¥55,000
TODAYS GOOD 「今日はうまくいかなかったけど、いい日だった。」 TODAYS GOOD 「今日はうまくいかなかったけど、いい日だった。」
¥154,000
R.G.W. R.G.W.
¥49,500
いばらの子 rose girl いばらの子 rose girl
¥330,000



幸せへの近道は『要らない常識』からの解放

アトリエの壁に並んだ作品

-今回お話を聞いていく中で出てきた、「要らない常識を変えたい」という言葉がとても印象的でした。これにはどういった想いが込められているのでしょうか?

アリス:素直な感情や欲求に対して、我慢している人が多い気がします。心と体がつながっていて、言動に嘘がない人が好き。私自身もそうありたいし、誰もがそうなれたらストレスがなくてみんな自分らしく生きていけるんじゃないかって。

「こうしなければだめ」「きちんとしなきゃいけない」、あるいは「こういう場ではこの服を着るべきだ」といったようなもの。例えば、「絵を買うなんて贅沢だ」っていう思い込みもその一つですよね。

そういう制限を取り払って、「欲しいから買う」「食べたいから食べる」「今の気分に合うからこれを着る」といった風に動けるのが、心にとって自然なんじゃないかと思っています。生活空間も同じで、「これでいいか」と妥協で選んだものを置くのは、どこか自分を大切にできていない気がして嫌なんです。

-私(シナモリ)のように、普段絵を描かない人間からすると、アーティストの方はどこか「自分とは違う存在」だと感じてしまいます。

アリス:私は自分のことを根っからのアーティストって風に全然思いません。才能があるとも思えない。「この人は天才だなあ!超アーティスト気質!」って方に会うと、自分との差はすごく感じます。だからその分、圧倒的に努力しなければいけないと自覚しているし、描いたら売れるってわけじゃないから工夫しないとな、と思っています。

とはいえ、自分がすごく一般的で普通かというとそうではなくて、小さい頃は学校に馴染めずに苦労したり、いじめを受けたこともありました。だから「普通」って言葉は好きではないんですけど、私の中で普通って思ってることは世の中の普通とずれていたりするので、人間の数だけそれぞれの個性があるっていう考え方が好きです。

だから常識とか、普通はこうだよねっていう考え方に対して、本当は自分の気持ちは賛成していないのに、そうじゃない決断や行動をしているとしたらもったいないと思います。

美大に通い始めたら変で面白い人がいっぱいいたし、東京に来たら個性的な人の数はもっと増えました。大人になるにつれて、自分の小さい悩みやコンプレックスも前向きにとらえればいいんだと思えたり、色んな人の考えや感性を尊重できるようになったりしたことで自分自身を前よりは認められるような気がします。

日本人が受けている教育や文化によって、過去の私と同じような気持ちを抱いている人もいると思います。世界は広くて、自分がありのままでいられる場所があるってわかって、みんな自分らしく生きられたらいいなって、真剣に思ってます。

お絵描きと祖父母が大好きだった

祖父の家にあったマッチ箱
祖父の家にあったマッチ箱。他にも色褪せない品々が沢山。

-アリスさんのルーツについても、お話を伺っていきたいと思います。ご出身は愛知県なんですね。小さい頃はどんな感じだったんでしょうか?

アリス:子どもの頃から絵を描くのが好きで、赤やピンクのクレヨンでうさぎを描いていた記憶があります。

初めて個展をしたとき、当時の絵を自分の原点みたいな感じで、ご挨拶の文章と一緒に飾ったんです。うさぎが好きとか、赤色が好きとか、今も変わらない部分はそんなに小さい頃からあったんだなって、時間が経って振り返ってみて気づきました。

地元の話でいうと、私はすごくおじいちゃん・おばあちゃんっ子で、よく一緒に喫茶店に行っていました。大人になってからもずっと喫茶店やカフェが大好きで、コーヒーやケーキを作品のモチーフにしたこともあります。洗練されすぎていて個性がないより、レトロで懐かしい感じが好きです。

今着ているのも祖母の服です!この時計も祖父のものなんです。

山田:かっこいい!そういうのいいなー。

-今の時代に見てもスタイリッシュですね。まったく色褪せていない。

アリス:そうなんですよ!ずっと気に入っています。修理代はすごく高かったんですけど(笑)、簡単に買い替えたり新しくするよりも、長く大切に使い続けるのが好きです。

消費というものに違和感があるし、自分の絵も簡単に飽きて捨てられないように、「長く大事にしてもらえるいい作品にしたい」って思いながら描いています。

アートが果たせる役割

-ご自身の作品が、実際どのような空間にあるのが理想的ですか?

アリス:どこでも好きな場所でいいので、飾ってもらえることが嬉しいです。しまい込んで欲しくないですね。

陽が当たったりしてもどんどん飾って、毎日見てもらえたら凄く嬉しい。「ずっと部屋にあっても飽きない絵にしたい」と思って描いているので、家の中とか、その人の生活の一部になるような空間で、一緒に時間を過ごしてもらえるのが理想です。

以前、子育て中の女性が私の絵を買ってくださって、「どんなに疲れ果てていても、作品の前にいる時は落ち着いた気持ちになれる」と言ってくれたんです。どれだけ部屋が散らかっていても、子どもが泣き叫んでいても、少し自分に戻ってこられる場所がある。

そうやって私から生まれた絵が、誰かの生活や気持ちに寄り添っている事実を聞くことができた。絵を描き始めてよかったなと思える大事なエピソードです。

-素敵ですね。他にお客さんから言われて嬉しかったり、印象的だったりしたことはありますか?

アリス:名古屋で開催した展覧会に、友人の子どもが来てくれたときのことです。小学校4年生くらいの女の子だったのですが、自分のお小遣いで作品を買ってくれたんですよ。

5,000円って子どもにとっては凄く大きな額ですよね。彼女の決断が本当に嬉しかったし、素敵だと思ったので、私もあえて無料であげるね、とはせずに、一人のお客様として買ってもらいました。

そもそも日常で絵の展示に行く機会ってあまりないと思うんです。足を運んでくれただけでなく、アクションを起こしてくれた。絵を見て感動してくれて、自分の意思で買って、飾ってくれている。

その一連の流れそのものが、私が大事に思っている「感情に正直でいること」や「豊かさ」そのもので。それを自然と体現していることに感動させられました。

自分の中で「最高」の表現を目指して

壁に立てかけた『クリスマスの森』を見つめるA7ICE Kanematsu Eri

-ここからは、制作について伺っていきたいと思います。今まで描かれた中で、印象に残っている作品はありますか?

アリス:『クリスマスの森』という作品です。私は絵がうまく描けていないと思った時、「これは違う!」と水でジャーっと洗ってしまうことがあるんです。アクリルと水彩を重ねているので、水彩が流れてアクリルだけが残る。そこからもう一度描くと、自分でも予想していなかった新しい作品になったりするんです。

私は環境問題への意識から、簡単に捨てたり、または制作することで大量のごみが出るのは嫌なんです。もし失敗作ができちゃったら、キャンバスを捨てないといけないですよね。なので、どんな絵も、途中上手くいかないなと思っても絶対完成させるようにしていて。面白いことに、そうやって苦労して、工夫した絵は味が出るんです。

『クリスマスの森』もそうで、なんだかうまく描けないなと思っていた時に、お風呂の湯船にじゃぶーん!と浸けちゃったらどうなるかな?と急に思いついて。結局それは家族に怒られそうでやらなかったのですが、リビングの壁に養生をして、絵を立てかけて、水を流してびしょびしょにしてみたんです。

描き終わったとき、「出来た」という確かな感覚がありました。こんなに自由に描けたのは初めてだったので、私ってこんな風に描けるんだ!という発見にもなりました。

【その時の映像はこちら】

 

-(記録動画を見て)すごいですね。これを描いている間は、どういう感覚の中にいたのでしょうか?

アリス:ノッてる!って感じです。高揚していて、思考より感情が先行して思いっきり描けている。スポーツ等でいうゾーンに入っている状態だったのかもしれません。感情と自分の動きが連動しているような。普段絵を描くときに、意図的にそうなるのは難しくて、だから未だにこの絵を超えられていない感じがあります。

他のアーティストで、「画面のどこに何を描けばいいのかが自然と湧いてくる」と仰る方がいて、天才と呼ばれる人たちは、常にその感覚でいられるのかもしれません。私も、好きな時にいつでも自分のスイッチをオンにできたらと思うけど、それは感性が伴ってないのかな。

もしまた急に特別な衝動が湧き出る時のために、どれだけ汚してもいい大きなアトリエが欲しいです。あ、でも、眠りにつく直前とか、夢から覚めた時に思いつくこともあるので、究極はキャンバスの隣で寝ないといけないかも(笑)。

一度描き始めた作品は絶対に捨てない

制作に使用しているアクリル絵具

-キャンバスを水で洗い流されたということですが、『クリスマスの森』は元々どんな仕上がりだったのですか? 

アリス:『クリスマスの森』は、水で流す前はもっとはっきり森の風景として描いていたんですけど、最終的には抽象画になりました。

大切にしているのは「毎日見ていても飽きないか」ということ。あまりに具体的すぎると飽きてしまう気がして、例えば包装紙の模様のようなものだったり、意味を持ちすぎていないように見えた方がいいと思っています。人の感情は固定されたものではないので、それと同じように見るたびに違うように感じられてもいいなと思っています。

オリジナルのキャラクターを持っているアーティストさんもいますよね。同じモチーフを扱うとブランディングにもいいし、可愛いなと思ってやってみたのですが全然上手く描けなくて(笑)。キャラクターを生み出すのは断念しましたが、そのキャンバスも捨てずに何度も何度も重ねて描き続けて、全く違う作品になりました。

最初の鑑賞者は自分自身

A7ICE Kanematsu Eriの絵画制作風景

-現在は、このご自宅兼アトリエで描かれているんですよね。

アリス:そうです。基本的にはこの小さなアトリエで描いていて、大きなサイズのキャンバスはリビングの壁に立てかけて描くこともあります。大きな作品を思いっきり制作できる広いアトリエは、ずっと憧れです。

-作品は一枚あたり、どのくらいの制作期間で描かれるんですか?

アリス:描いているのは数時間から1日くらいだと思うのですが、自分が「完成」と確信できるまでに数ヶ月かかることもあります。というのも、できるなら長く大事にしてもらいたいという気持ちがあるので、実際に自分の部屋に飾ってみて、見飽きないか、つまらなくないか、おかしくないかしっかりチェックします。勢いはあるくせに心配性なんです!(笑)

描き上げた直後はいいと思っても、飾って1ヶ月で飽きてしまうならいい作品とは言えない。だから、日々眺めながら何回も微調整を繰り返しています。1回2〜3時間の作業で、半年以上かけた作品もあります。

-びっくりしました。実際に飾って、眺める時間も含めての制作期間なんですね。

アリス:制作期間は短ければ短いほど良いという考え方のアーティストさんもいるし、その瞬間の勢いや鮮度を大切にするスタイルも素敵だと思います。色々な画風やアプローチがあるなと感じています。

今後の活動について

抽象表現で描かれた肖像画

-これからやっていきたい活動はどんなことですか?

アリス:やりたいことはたくさんあります!今やりたいのは作品集です。私はプロダクトとしての完成度や見え方を凄く気にするので、本のサイズや重さ、質感にはこだわりたいと思っています。本もすぐ捨てられないようにしたいから(笑)。

大きなキャンバスでライブペイントもしたいです。街のインスピレーションをもらって、その場で描くのが好きなので、渋谷の交差点で巨大なアートを表現してみたい。

先程もお話ししたように、体験を通してアートを身近に感じてほしいという想いが強いので、たまたま通りかかった人に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

そんな風に、普段の生活の中でアートを楽しんでもらえるように、パッケージのブランドも立ち上げたいと考えています。可愛い箱ってつい集めてしまいますよね。絵を買うハードルは高くても、商品という感覚で手に取ってもらい、そこに描かれたアートを家に飾ったり、宝物にしてもらえたらなと思います。

作品を描く手のひらを広げて見せるA7ICE Kanematsu Eri

最近は、人相に興味があることに気が付いて、肖像画のプロジェクトを進めています。生まれたばかりの赤ちゃんはみんな似ていますが、成長するにつれて、その人の生き様が顔に現れていきますよね。生き生きしている人は表情に輝きがあるし、努力した経験がある人には明るさや朗らかさの中にもちゃんとそれが顔に出ている。

そういった人それぞれの顔が凄く素敵だし、面白いと思って描かせてもらっているんです。この作品は初めて人物と向き合った最初の作品群なので、まずはこの展覧会を良い形で実現させたいです。

私は元気で100歳まで生きるのが目標なので、絵画に限らず、晩年のピカソみたいに、いつかその時が来たら立体作品もやってみたいと思っています。

本当にやりたいことはいくつになっても溢れています!いろんな作品を作ってアートと人が出会うきっかけになる活動をしていきたいです。そうやって誰かの心を自由にできたら嬉しいです。

人生のどのタイミングでも、その時の最善のものをずっと表現できる自分でいたいと思います。

ーどれも素敵な活動で、これからがさらに楽しみです。最後に、読者へメッセージがあればお願いします。

アリス:一人ひとりが、自分で自分を幸せにすることができたら、世界は平和なんじゃないかとずっと思っているんです。

自分が心から「好きだ」と思えるものを選んで日々の暮らしを満たし、心を豊かにしていくこと。私自身もそうありたいし、私の作品や活動が誰かにパワーを与えられるよう、これからも描き続けていきたいです。

A7ICE Kanematsu Eriの絵画制作風景

まとめ

美術館の厳かな雰囲気や、オークションでの高額落札のニュース。そんなイメージに触れるたび、「アートは自分とは無縁の高尚なもの」と感じてしまうかもしれません。

しかし、アートが持つ本来の力は、決して一部の特別な人だけのものではありません。誰もがアートを通して自分の心と向き合う時間、癒し、勇気などを受け取ることができるのです。

アリスさんの作品や言葉は、無意識に抱えていた『要らない常識』を手放し、素直に生きることの心地よさを教えてくれます。「これでいい」ではなく、「これがいい」と心から思えるものを選び取ること。その積み重ねが、人生を豊かに彩っていくはずです。

日常の中に、あなたが「好き」と言える場所を。

アリスさんの温かな感性が宿る作品とともに、ぜひ新しい暮らしの第一歩を踏み出してみてください。


A7ICE Kanematsu Eri

A7ICE Kanematsu Eri

東京都在住。主にアクリル・水彩を用いて絵画制作を行う。グラフィックデザインやアートディレクション、展覧会やショップの企画運営など幅広く活動中。


▶ HP:
https://a7iceart.jimdofree.com/

▶ Instagram: https://www.instagram.com/a7ice/

 


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