【 日々を楽しみ、豊かに生きるVo.1】メダカとの付き合いから感じること。

投稿日:(火)

【 日々を楽しみ、豊かに生きるVo.1】メダカとの付き合いから感じること。

目次

2022.6.28.UPDATE

「豊かさ」とは何か?

昨今、盛んに議論されている「豊かな生き方」について。このコラムではそんな大きなテーマを元にアーティストとして日常生活から感じたこと、考えたことについて書いていく。今回は、メダカの赤ちゃんが生まれた事から、今年で3年目になるメダカとの付き合いを振り返る。



関わること

青水の中にいるのは、5匹のメダカ達。自宅のベランダに置いたプラスチック製の鉢の中にいる彼らは、同時期に生まれたはずなのにそれぞれ体の色が違う。

「そっちの暮らしはどうよ?」と聞いてみたくても、答えが返ってくることはない。

季節外れの暑さ。梅雨らしい雨が降らないままに、空気はほんのりと夏の香りを漂わせる。厳しい夏を迎える前のギリギリのタイミングを狙ったつもりが、引っ越し後の環境としては、いささか厳しい状況下になってしまった。1週間前に6匹いたはずのメダカは、恐らく1匹死んで、5匹となった。


彼らが生まれたのは、緑豊かな集落の石鉢だ。元々、私が古民家に暮らし始めた時に、一緒に飼っていたメダカを連れてきた事が始まりだ。街中のマンションから自然の中に入り込むと、毎日餌をあげていたはずのメダカ達は、途端に自立した世界を作り上げるようになった。


「人間の餌なんか、いらないし」


そう言われているかのように思える程、彼らは緑色に濁った青水の中に隠れた。濁った水の中にいるメダカは、もう私の目から彼らの姿をじっくり観察することができない。そんな感触を感じて、私は飼い主というより、庭に暮らす隣人のような存在となった。



手放すこと

隣人となったメダカは、子どもを沢山増やして、賑やかな大家族となっていった。私が毎日、世話をしていた時は繁殖なんて一切しなかったことを考えると、人間の力なんてちっぽけなものなのだ、と実感する。自然は、私の想像以上に大きくて、ダイナミックなものであることを、今思えば彼らから教えてもらったのかもしれない。

何か生き物を飼育していると、あまりに大事に思い過ぎて何から何までコントロールしたい気持ちになる。水温、水質、餌の量、やって来そうな天敵を想像しては、それに備えて大層な対策をしてしまう。

初めてそんな呪縛が解けたのは、ジル・クレマンの「動いている庭」の映画を見た時だった。ジル・クレマンが映画の中で何度も口にする「(植物に)出来るだけ合わせてなるべく逆らわない」という言葉に、メダカを飼い始めて2週間ほどたった私は感銘を受けた。

動いている庭|The Garden in Movement

動いている庭|The Garden in Movement

本作は、日本各地を訪問するクレマンと、彼の自宅の庭をロングショットで記録した民族誌的な映像である。クレマンの行為を長回しで撮影する中で、撮影者がカメラになり、そしてそれを通して撮影者は被写体と呼吸リズムを同調させる、呼応するようにクレマンも何か新しい輝きを持った存在になるだろう。



当時、メダカの天敵であるヤゴ対策として、メダカの鉢の周りには細かい網を張っていた。しかし、それは一見メダカを守っているように見えて、私自身を守っている行為に過ぎなかったのだ。「想定外のことが起きてほしくない」そんな思いをメダカに転嫁していたのだろう。

結局、網を張らなくてもヤゴの襲来はなかった。それは街中のベランダでも、田舎の大自然でも変わらなかった。中々、人間とは難しいもので、手放そうと思っても一気に全てのものを手放せる訳ではない。


メダカの次はウーパールーパー、ウーパールーパーの次は野菜、野菜の次はメダカ…とグルグルとループしながら、私は私以外の世界に身を委ねることを覚えていく。

「人間は色んなことを難しく考えすぎたんだ」という人がいる。勿論、それはその通りだと思う。しかし、最終的に色んなものを手放すには、一度難しく考えすぎる必要もあるのだ。そんな二重構造の思考をもって、自分で勝手にグルグルしている。そんな私の目の前で、メダカはのんびりと日向ぼっこをする。

加えられること

世界との関係性は、自らの意志で関わること、手放すことの2つだと勝手に考えていた。しかし、その他にも、無意識的に環境に加えられていることがあることも忘れてはいけない。


去年の秋頃だっただろうか?借りている畑でいつものように草刈りをした。夏の時期はとにかく背が高くなる雑草が生い茂って大変で、初夏から梅雨にかけては一雨降るごとに、目に見えて成長する野菜や花(と雑草達)の姿に、最早恐怖を感じていた。

そんな草たちと接しながら、ふとある日の除草を境に草たちの植生が変化したように思えたのだ。夏まではとにかく背の高い雑草が辺りを埋めつくす。それらが刈られた後、背の低い雑草たちが徐々に周りを覆い始めたのが、少し涼しくなった秋の始まり頃。


「あれ?私はこうして世界の循環を促進させているのかもしれない」


ぱったりと生えなくなった夏の雑草を思いながら、彼らによって隠されていた雑草たちを見て思った。私は単純に、農作業の一環で草刈りをしただけだった。それが季節の変わり目になって、無意識的に植物たちから重要な任務を任せられていたのかもしれない。


トマトの実が赤いのは、動物が実を取って食べている過程で、その中にある種を遠くに飛ばしてもらうため
花がカラフルなのは、虫によって受粉の行為を促進してもらうため


似た事例をいくつか思い出すと、私たちは自分たちの意志以上に、周りの環境によって動かされている、そんなことを気付いた日であった。

ハーブも剪定するから、また大きくなり、長い間生き続ける。動物も草も、食物連鎖によって誰かが食べてくれるから世界としてのバランスが保たれている。だから、人間もきっとその中の一部なのだ。

そう思うと、過度な保護はまた別の問題を生み出すし、逆に乱獲することも同様に別の問題が生まれる。要はバランスの取り方だと思うと、これはこれで難しいもののように思える。


「メダカさんはどう考えますかね?」


と聞きたくて、石鉢の中を覗くと、集落の子どもたちがお花を飾ってくれていた。ああ、私も早速この環境に加えられている。



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